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 これまで紹介した天才たちは、いずれも日本および米国の経営者たちだ。情報革命によってビジネスの環境が大きく変わり行く中で、これまで無かったビジネスモデルを生み出し、勝ち上がってきた人物ばかりだ。

 今回は少し視点を変えて、マーケティングの大御所であるフィリップ・コトラーを取り上げたい。マーケティングとはビジネスにおいて重要なモノの見方を提供してきた学問だ。しかも、時代の流れに合わせて、マーケティング理論自体のモノの見方も変わってきている。コトラーが「近代マーケティングの父」「マーケティングの神様」と呼ばれているのは、こうした学問自体の進化をリードしてきたからである。

サミュエルソンの問いに
コトラーはどう答えたか?

 コトラーは元々シカゴ大学で経済学を学び、その後MITに行き、経済学の博士課程を修了している。その時の審査で面接官になったのが、「近代経済学の父」と呼ばれたポール・サミュエルソンだった。

 サミュエルソンはノーベル経済学賞を受賞しており、経済学を「社会科学の女王」とまで呼ばれる地位に押し上げた人物だ。サミュエルソン自身がハーバード大学で経済学博士を取った時の話だ。審査委員の3人の高名な教授が、面接終了後に顔を見合わせて、「自分たちはサミュエルソンから合格点をもらえたのだろうか」と言ったそうだ。

 こうした達人サミュエルソンが、コトラーに対して面接の場で次のような質問を投げかけた。

「マルクスの労働価値説についてどう思うか?」

 ここではこれをエクササイズの題材にするのはやめておこう。その方が読者のためであり、私のためでもある。