2016年2月、旧日本ペイントの元執行役員が転職先の菊水化学工業にある製品の製造ノウハウ(企業秘密)を持ち出したとして不正競争防止法違反の疑いで逮捕された(後に起訴、再逮捕)。15年7月に、日本ペイントHDが元執行役員を刑事告発したことが始まりだが、決着が付くまでもう少しかかりそうである Photo by Satoru Oka/REAL Photography

 併せて、過去にはバラバラだった人事制度や給与体系などの統一・再設計も進めています。私は、そうして束ね直すことで、意図的に“混じり合う状態”を作り出しました。当然、過去の力関係などから衝突が起こるであろうことは織り込み済みです。私としては、不毛な衝突にエネルギーを使うのではなく、衝突を乗り越えていくことにより、社員の一人ひとりが当事者意識を持ちながら“新しい企業文化”を作り上げてほしいと願います。上からの指示を待って何かを始めるのではなく、自分たちで自分たちの将来像を描いていくのです。

 もちろん、新しい方向性の中で大きな成果を上げた社員は、入社時の会社で区別することなく、さらなる挑戦ができる機会を提供したいと考えています。

外国人が社長になり
本社が海外に移る?

――日本ペイントHDの海外事業では、中国が目立ちます。中国事業の売上高は約2350億円で、住宅内装用塗料の「立邦」は約27%のシェアを握るトップ・ブランドです。54年前にシンガポールの華僑資本ウットラム・グループと組んでマレーシアに出て以来、「技術と生産は日本、販路の開拓は中国」という役割分担がありました。ところが、13年初頭にウットラムは子会社を通じたTOB(株式公開買い付け)で、日本ペイントHDの買収を表明しました。

 50年以上も協業していた相手から、突然、TOBを始めると言われたのですから、「何で、そんなことになるのだろうか」という感じでした。やはり、彼らとの合意形成のプロセスでは、相互理解が足りなかった。要するに、ディスコミュニケーションが原因だったと思います。50年以上のパートナーと言っても、表層的で、部分的なアライアンスに過ぎなかったという反省があります。

 世界の塗料マーケットが大きく変化している中で、当時の日本ペイントHDが日本国内しか見ていなかったなど、彼らの思いとの間に“齟齬”があったのだと考えています。あの時は、じっくり話し合いをする前にTOBということが表に出てしまいましたが、その後は両社の協業をさらにタイド(緊密)な関係にするべく、ウットラム代表のゴー・ハップジンさんと「将来はどのようにして世界で勝って行くか」などを真剣に話し合いました。最終的に、TOBは取り下げられて、ゴーさんは日本ペイントHDの最大株主(約39%)として経営に関与し、一方で私たちは過去にウットラムとアジアで進めてきた合弁会社8社を子会社化しました。現在は、両社の協業をさらに深めて、アジア市場に軸足を置きながら、一緒に成長していこうという方向性で一致しています。