7月23日、CEBS(欧州銀行監視委員会)は欧州の91の銀行のストレステストの結果を発表した。その内容は、最も悪いマクロ経済見通しを前提とした場合、91行中7行が資本不足(中核的自己資本〈Tier1〉比率が6%未満)に陥る、というものだった。
7行の名前を見たある外資系証券のアナリストは、「出来レース」と断じた。それは、7行はそれぞれ自国の政府の強い監督下に置かれている銀行ばかりだったからだ。7行のうち5行は、政府の指導の下、再編を進めているスペインの貯蓄銀行。ドイツで唯一資本不足となったヒポ・リアルエステートも政府による公的資金注入を受けて、監督下にある。残るギリシャ農業銀行は国営である。
最悪のケースと胸を張るマクロ経済の前提にも、甘さがある。たとえばギリシャ国債の損失率は23.1%と設定されている。実際は春からの暴落で4割以上価格が下落したこともあったことを考えると「損失幅が小さく見積もられている」(田中理・第一生命経済研究所主任研究員)と言わざるをえない。
とはいえ、曲がりなりにも「個別銀行の国別国債保有額やリスクシナリオにおけるローン、国債の損失率などが示されたことで、不透明感はある程度払拭された」(藤岡宏明・大和証券キャピタル・マーケッツ金融市場調査部次長)と評価する声もある。
こうしたプラスとマイナスの要素を差し引きしたうえで「及第点」(中空麻奈・BNPパリバ証券クレジット調査部長)というのが趨勢だ。欧米の主要市場の株価は、23日、26日、27日と3日連続で上昇、ユーロも買い戻された。
ストレステストという一つの重要な関門は通過したが、これで欧州の財政危機再燃の可能性がなくなったとはいえない。資本不足銀行がストレステストで明らかになった資本不足を、自力で調達できなければ、政府が公的資金を注入することになるが、これは財政赤字を拡大させる。今回のストレステストは、危機の根源にある財政問題にマイナスになりこそすれ、プラスには作用しないからだ。
加えて、世界経済の減速も財政収支改善の足を引っ張る。米国の小売り売上高は5月、6月と2ヵ月連続で減少し、FRB(米連邦準備制度理事会)は6月に米国経済の成長率見通しを0.2%引き下げた。欧米先進国がいっせいに財政引き締めに向かえば、経済の減速に拍車がかかり、税収が減少するのは確実である。
仮に、フランスなど欧州主要国の財政好転の兆しが見えないまま、ギリシャ、ポルトガル、スペインの財政再建計画が頓挫するような事態が起きれば、再びユーロ並びにユーロ圏の国債が売られることは想像に難くない。危機の火種はくすぶったままである。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田孝洋)