「新しいベンツが欲しいからもっと働け」
身勝手なタダ乗り社長にどう対処するか?

 もう10年近く前、京都に住んでいたとき、懇意にしていた割烹の板さんと女将から、プライベートで聞いた話である。

「今朝、社長の訓示があってね。『最近うちの店の売り上げが伸びておらん! これでは俺は新しいベンツに買い替えられないじゃないか。』だって。あいつ、大っ嫌い! もう2年以上店に顔出してもいないくせに、売り上げの数字しか見ないんだから!」

 第5回の記事で紹介した「社長がフリーライダーである」ケースだ。ちなみに、このお店の切り盛りはこの2人だけ。板さんの一流の腕、女将のアットホームな接客、リーズナブルなお値段で、地元のみならず、全国にファンのいる店だった。

 もちろん、彼らは前述のようなことを店でお客に愚痴るようなことはしない。あくまで、プライベートの付き合いの場で、つい私に話してしまっただけだ。

 現場では、顧客満足を高める努力を怠らなかった。富山の漁港から鮮魚を直送してもらうようにし、日本酒もできるだけ試飲して料理に合うものを常時10種類以上仕入れており、良い食材やお酒が入ったときには必ず常連さんに連絡を入れていた。

 それらは、すべて板さんと女将が自主的に行なっていた。そういった努力も評価しない社長が「ベンツを買い替えられない」とのたまっては、2人が怒るのも当然だ。

 フリーライダー経営者にどう対処するか。これはとても難しい問題だ。なぜならそこには「二次的ジレンマ」という問題が存在するからだ。

 第2回の記事で、フリーライダー問題の背後には「社会的ジレンマ」という構造があることを述べた。社会的ジレンマとは、皆が協力して全体の利益を生むべきときに、自分は協力しないで他の者の協力に「タダ乗り」する方が得になるという状況である。