災害はいつでも突然、企業を襲う

 今年の夏はこれまでとは比べものにならないほど暑い。照りつける日差しに手をかざしても、一向に暑さはその力を弱めることはない。お盆休みで連続1週間の休みに入っていた。4日目となるとやることがない。リクライニングチェアに深く身体を沈めてうとうとしていた。そのとき突然、地方都市の工場に勤める従業員から、携帯に1本の連絡が入る。思わず緊張が走り、身体がこわばった。

 工場が爆発炎上しているという。すでに爆発してから1時間が経過しているが、未だ燃焼力が強く、消防は現在も必死の消火活動を続けている。いつまた爆発するか予断を許さない状況と伝えてきた。電話を切るなりテレビのスイッチを入れた。

 モニター画面に絵が映し出された瞬間、モクモクと黒煙を上げる見慣れた建物が目に飛び込んできた。報道各局のヘリコプターが、凄まじい勢いで燃え盛る炎や、時折唸りを発する爆発をつぶさに映像に落としている。「大変なことになってしまった!」リスク管理担当役員のSはつぶやいた。

過熱する報道、真実はどこに?

 一般的に「消防法」等に記載される「危険物」を扱っている企業は多い。「危険物」が設置された当初は、取り扱いの基準を整備し、保管についても慎重さを欠いたことはないだろう。当然、従業員も注意・喚起は怠らなかったはずだ。C社もそんな「危険物」を扱っている化学製品製造業を生業(なりわい)とする企業の一つである。

 例年にも増して暑い真夏のある日、事故は突然発生した。なぜ爆発が起きたのか。事故発生から2日目、消火活動がほぼ終了し、消防・警察による現場検証が行われている中、マスコミや世間の関心は、そこへ移りつつあった。公的機関の検証は、これから本格化しようとしている段階にもかかわらず、民放各局は外部専門家を交えて、色々な火災発生原因の可能性を指摘し始めている。C社は現場工場の防火管理者を本社に呼んだ。