膨大なデータを収集する技術やシステムが確立し、それらを活用する仕組みの構築が問われている。重要になるのが、マーケティングだ。調査会社GartnerはCIO(最高情報責任者)よりもCMO(最高マーケティング責任者)の方が予算が大きくなるとの予想を打ち出している。予想が正しければ、2017年、つまり来年だ。デジタルマーケティングクラウドを提供するAdobe Systems(アドビ システムズ)が3月に開催した「Adobe Summit 2016」では、この分野の最新動向を見ることができた。(取材・文/末岡洋子)
スマートフォン、タブレット、PCなどのマルチデバイス、ソーシャルを始めとしたさまざまなサービス、それに店舗と消費者はさまざまなデバイスとチャネルを駆使して情報を収集し、購入の判断を下している。デジタルマーケティングでいまなにを考えるべきなのか。Adobeの回答は「体験(エクスペリエンス)」だ。
SummitでAdobeのCEOを務めるShantanu Narayen氏は、「企業は素晴らしい体験を適切なタイミングで提供しなければならない。できなければ、新規参入や競合に破壊される」と述べた。
Adobeのマーケティング技術「Adobe Marketing Cloud」は同社が2009年に買収したOmniture(オムニチュア)を核とする。現在、デジタルマーケティング事業部を率いるシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャのBrad Rencher氏をはじめ、Omnitureのメンバーが現在も幹部としてMarketing Cloud事業を牽引している。Summitでその幹部の1人、John Mellor氏(デジタルマーケティング事業部門ストラテジー、事業開発&マーケティング担当バイスプレジデント)に話を聞いた。
消費者は購買という“体験”を
吟味して買っている
体験という曖昧な言葉について、Mellor氏は、「消費者がさまざまなことをデジタル、モバイルで行うようになっており、ブランド(企業)への期待が変化している」と背景を説明する。われわれが何かを購入するとき、それは単に製品だけではなく、ショッピング体験そのものであり、購入後の利用体験も含んで判断しているのだ。
Mellor氏は例として、自動車業界を挙げる。大手自動車メーカーの幹部との話として、「自動車メーカーは、車を販売しているとは思っていない。車の特徴や機能のリストだけではなく、車から得られる体験も含めて販売していく必要がある。タイヤの状態やガソリン残量を知らせるアプリなど、さまざまな可能性がある」と説明する。
航空会社でも、単に航空券を購入するのではなく、フライトやゲート情報、簡単なチェックイン、座席のエンターテインメントプログラム、受託荷物の追跡など、航空券の領域を超えたさまざまなサービスが考えられる。製品を買う前、購入、買った後の利用とすべての体験を考える必要がある、ということになる。