あちこちで非難されながらも、電車内で化粧をしている人は増えているように思う。ゆっくりと化粧する時間がないのだろう。電車での移動時間を有効活用している。限られた時間のなかでテキパキと仕事をこなす女性だ。

 塗る、塗る、塗る、描く、描く、描く……。

 馴れた手つきでこなす。じっとしている暇などないのだ。どんな時も身だしなみを考える。スッピンでいることなど考えられない。いい心がけだ。

 そう書いていると電車内で化粧する人はかっこよく思えるかもしれない。しかし、車内化粧さんには美人が少ないように思う。電車内での化粧は「美人のもと」を減らしてしまうのだろうか。

 その謎を解決すべく、車内化粧さんたちを見る。そして「美人のもと」が減る瞬間がわかった。目の下あたりをあれこれやっている時だと思われる。顔が急に変わる。怖いくらいに変わる。

「叫び」だ。ムンクの「叫び」になっている。

 まるで「ウォーッ」と言っているかのように顎と鼻の下を伸ばしながら、口を丸くする。鏡は見ているのだが、その鏡は小さく、目の辺りしか映っていない。つまり、問題の下半分が「叫び」になっていることに気づいていないらしい。周りは「叫び」を見て見ないふりをする。そして口が時々左右に歪む。叫び足りないのか。

 しかし、なぜそんなに必死で「叫び」をやるのだろう。たぶん目を大きく開こうとしてついついつられて口まわりまで力んでしまい、ムンクの罠にかかる。まるで時間がないことに対して叫んでいるようだ。

 化粧をするなら、やっぱり美しい表情でやったほうがいい。できれば、ゆっくりと楽しみながら。余裕のある化粧時間には「叫び」が入りにくい。

 時間に追われるのではなく、時間をつくる気持ち。時間に追われて義務感で化粧するのではなく、自分をしっかり見つめて楽しむ化粧時間をつくる意識は自然と自分のいい表情をつくっていく。

 好きな場所で、大きな鏡で自分の表情を見ながらさらにいい表情をつくっていく。きっとその大きな鏡の環境は「美人のもと」を増やしてくれる。