ノーベル賞を受賞することになったファイナンス理論の中でも、MM理論は「借金に関する理論」だと言える。その内実はどのようなものなのだろうか? 話題のファイナンス理論入門書『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』から紹介していこう。
借金まみれの物件は、
価値が低いのか?
前回は集めたお金に対するコスト、WACC(加重平均資本コスト)の考え方を確認した。この議論を前提とすると、僕たちの借金に対する考え方というのは、かなり怪しいものに思えてくる。
そして実際に、「お金を借りていようといなかろうと、企業の価値には何の影響もない」と断言した理論があった。それがMM理論である。
これは企業の価値に関するファイナンス理論として世に出たが、普通の人の借金についても同じことが言える。
いきなり企業価値の話ではわかりづらいので、個人の投資を例にして考えてみよう。
同じ建物内にあり、間取りも内装も同じの中古マンション2部屋のうち、どちらを買うかで悩んでいる。それぞれの部屋の所有者に話を聞くと、こんな答えが返ってきた。
部屋Cのオーナー「5000万円のローンを組んで買いました。しばらく返済は滞っていますが……部屋はとても素敵ですよ。ぜひ4000万円でどうでしょうか?」
部屋Dのオーナー「この部屋は5000万円全額を自己資金で一括購入しました。事情があって手放すことにしましたが、いい部屋ですよ。4010万円でどうでしょうか?」
外見的にはまったく差のない2つの部屋、どちらを選ぶか?
10万円の価格差があるとしても、なんとなくDを選びたくなる人が多いのではないだろうか。
お金に余裕のある人が暮らしていた部屋のほうがきれいに使われていそうだし、何よりも、お金に困っていそうな人が住んでいた部屋となるとあまり気分がいいものではない。
ここでDを選ぶ人は、マンションのグレードなどはまったく同じでも、前所有者の属性次第で、その価値に少なくとも10万円以上の差が出てくると考えているわけだ。