住宅ローンを組まずに自己資金だけで購入されたマンションのほうが、なんとなく価値が高いように感じるのは、無借金経営の会社のほうが企業価値が高くなるという一般論にも通じるところがある。

実際、抱えている資産や売上・利益などがまったく同じ会社2つがあったとして、一方は多額の負債を抱えており、もう一方は借金ゼロなのだとすれば、後者のほうがいい会社だと考えたくなる人は多いはずだ。

つまり、「借金でつくられた資産は価値が低くて当たり前」「自己資本でつくられた資産のほうが価値が高い」というわけだ。

しかしこの考え方は、売り手の立場に立ってみると、ちょっと腑に落ちない部分が出てくる。もう1つの問題を考えてみてほしい。

【問題】
マンションの一室を売りに出したところ、購入希望者が2人現れた。それぞれの買い手は次のように語っている。
買い手E「1割は自己資金ですが、残り9割は銀行からの借入を予定しています。4010万円でいかがでしょうか?」
買い手F「全額自己資金のキャッシュで買います。4000万円でいかがでしょうか?」
このとき、あなたはどちらに売りたいと思うだろうか?

買い手Eのほうが購入額は10万円高いのだとしても、なんとなくFを選びたくなる人が多いのではないだろうか?借金よりも自己資金を重要視するという意味で、たしかに先ほどと同じケースだと言える。

しかしこれは言ってみれば、住宅ローンを利用するEの買い手に対して、高い購入額を求めているということだ。たとえば、買い手Eから「では、4200万円でいかがでしょうか?」と言われてあなたが迷ったのだとすれば、あなたはEさんに200万円の追加プレミアムを要求していることになる。

整理しよう。自分が買い手のときには、僕たちは「借金が少ない資産」により高い価値を置く傾向がある。一方、自分が売り手となったときには、「借金で買われる資産」のほうにより高い価格をつけようとする。このねじれはどう考えればいいのだろうか?