世間を騒がせているセブン&アイ・ホールディングスの人事抗争。お家騒動の側面にばかり焦点が当たりがちだが、これは日本が国を挙げて改革に取り組むコーポレートガバナンス(企業統治)において絶好の研究材料だ。今回の一件をどう評価し、日本企業はそこから何を学ぶべきか。ガバナンス問題に精通するエゴンゼンダーの佃秀昭社長に話を聞いた。(聞き手/週刊ダイヤモンド編集部 鈴木崇久)
「日本のコーポレートガバナンス向上という観点から、セブン&アイの一件をポジティブに捉えています」
佃氏がそう語る今回の騒動の発端は、3月27日にセブン&アイに届いた書簡だった。
「もの言う株主」として知られる米投資ファンドのサード・ポイントが、セブン&アイの中核子会社であるセブン-イレブン・ジャパン社長の井阪隆一氏が降格するという話を聞きつけて懸念を表明。書簡を報道機関にも公表したことで、水面下での人事抗争が一気に表面化した。
3月30日には、セブン&アイ会長兼CEOである鈴木敏文氏が、指名報酬委員会で井阪氏の交代を提案。しかし、社外取締役は反対を表明し、議論は平行線をたどった。
そして4月7日には、社外取締役の反対を押し切って、鈴木氏が井阪氏の社長交代を含む人事案を取締役会に提出するも、否決となる。その結果、同日午後に鈴木会長が引退を表明することとなった。
エゴンゼンダー社長。東京大学法学部卒業後、1986年三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。2000年エゴンゼンダーに入社し、10年から現職。金融庁と東京証券取引所が設置した「スチュワードシップコード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」のメンバー。取締役会改革や最高経営責任者等のサクセッションプラン(後継者育成計画)などを手掛ける。
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「セブン&アイは今回の一件で、取締役15人のうち4人の社外取締役がいたことで、会長兼CEOの意に沿わない結果を取締役会で出しました。それも、従来の日本企業ではトップの専権事項だった人事案件においてです。これは画期的で、エポックメイキングなできごとだと思います。
取締役会で無記名投票にしたことも大きかったです。記名式だと、社内取締役がCEOの提案に反旗を翻すことはどうしても難しい。
セブン&アイが経営陣の指名や報酬を決める指名報酬委員会の設立を決めたのは今年3月。まだ設立から間もないこともあって、完全に機能したとは言えませんが、一定程度の機能は果たしたと総括していいと思います」
しかし、セブン&アイのガバナンスが完全に機能していると言えるようになるまでには、多くの課題が見つかったことも事実だ。
「本来であれば、今回の一件は起きるべきではなかったことも事実です。指名報酬委員会での議論では、鈴木さんの提案に対して、他の委員たちも「合理性があって納得できるから賛成」となった上で取締役会の議題にかけられるのがあるべき姿だからです」
また、自身の人事案が取締役会で否決されたことで、突如としてカリスマ経営者だった鈴木氏が引退を表明。その結果、4月19日の取締役会でセブン&アイの社長に井阪氏が就き、鈴木氏の後任トップに就く人事案が決議されたが、その過程においても課題が挙げられる。