また、2010年10月には、次の総選挙までの4年間の各省の歳出削減の見通しを記した「歳出レビュー」(Spending Review)を発表した。各省が平均で19%の歳出削減を行うことで、4年間で総額810億ポンド(約10兆5300億円)の歳出を削減する厳しい緊縮財政策であり、具体的には、年間70億ポンド(約9100億円)の福祉支出の削減、国・自治体合わせて公務員の1割(49万人)削減、公務員昇給の数年間凍結、国民年金の支給開始年齢の引き上げ、大学教育への補助金40%削減などであった。

 更に、2011年1月に付加価値税を17.5%から20.0%に引き上げることも発表された。英国では財政危機に対応するために、首相が増税を決断すれば、議会での審議も法律制定も必要なく、即日実行できる。これは、日本にはない首相の強力な権限である(第25回)。

 このような、過酷な緊縮策に対して景気への悪影響、失業率の悪化、社会的弱者への打撃などが心配された。キャメロン政権の支持率は低迷し、長期にわたって労働党に10%以上のリードを許すことになった。だが、キャメロン政権は支持率低迷に怯むことなく、緊縮財政策を継続し続けた。

 この連載で紹介してきたように、キャメロン政権は「2011年議会期固定法」を制定した。首相が「解散権」を自ら封印して、英国下院の会期を次回総選挙までの5年間と固定会期制とするもので、その狙いは不人気な財政再建を支持率低下に影響されることなく断行するためであった(第105回)。

緊縮財政と構造改革を同時に行い
経済成長を実現した

 キャメロン政権は、厳しい緊縮財政策の一方で、さまざまな経済政策を打ち出した。まず、医療、教育、国防などを「国家の最優先事項」として例外扱いし、所得税の控除額拡大や、法人税の引き下げ、などの減税を実行した。特に法人税は、2015年4月からは20%という先進国の中では非常に低い水準になった。

 また、住宅取得に政府保証を付ける住宅市場活性化や、法人税率のEU最低水準への引き下げによる海外企業の誘致や投資の積極的な呼び込み、量的緩和政策の実行などを巧みに織り交ぜた。それは次第に効果を現し始め、ロンドンを中心に住宅価格が年間3割近く高騰し、住宅バブルといわれる状況になった。また、中国を中心に海外からの投資が増え、鉱工業部門だけではなくサービス部門も成長率を押し上げた。