安倍首相は、再三に渡り、
同日選に含みを持たせてきた
安倍晋三首相が、衆参同日選挙を決断するかに注目が集まっている。任期満了に伴う参院選がある7月に、衆院解散総選挙も断行してしまうというものだ。2016年に入ってから、安倍首相は再三に渡り、同日選に含みを持たせる発言を繰り返してきた。民主党と維新の党が合併した「民進党」への支持が盛り上がっていない。同日選をやれば、衆参両院での3分の2以上の議席獲得の可能性は高く、首相の「最もやりたい政策」である「憲法改正」(第80回)が現実味を増すからだ。
また、2017年4月に予定される消費税率の8%から10%への増税の延期を安倍首相が決断するという観測も、同日選の可能性を高めていた。2014年12月には、「消費増税を延期する決断を致しました」と言って、解散をした前歴がある(第94回)。誰も反対しない増税回避を争点にする「究極の大衆迎合選挙」での大勝を、首相がもう一度狙うだろうという見方だった。
同日選の断行は難しくなった?
景気悪化、スキャンダル、熊本の震災
しかし、同日選断行の観測は、ここにきて遠のいているようだ。まず、経済状況が予想以上に悪化している。円高が急速に進み、株価が下落して企業収益を圧迫し始めている。中国経済の低迷など、世界経済の不安も続いている。アベノミクスに対する「狂騒」ともいうべき高い支持(第52回)は、遥か遠い昔のことになってしまった。黒田東彦日銀総裁が「マイナス金利」の導入を決断したが、効果は薄い。アベノミクスに対する不信感が広がっていけば、首相が同日選を決断するのが難しくなると思われる。
また、自民党でスキャンダルや失言が相次いでいる。国会議員として育休取得を表明しながら、妻の金子恵美衆院議員の妊娠中に女性タレントと不倫して辞職した宮崎謙介前衆院議員。自民党公認での参院選出馬を目指しながら、不倫問題で断念した乙武洋匡氏。そして、甘利明前経済財政・再生相を巡る金銭授受問題で、東京地検特捜部が強制捜査に乗り出している。「安倍一強」が続くことによる驕りに批判が高まれば、同日選への動きは冷え込んでいくと考えられている。
更に、熊本県を中心とする地震被害の拡大である。政治は復旧復興に全力を注ぐべきで、選挙などやっている場合ではないとの声が高まっており、一挙に同日選回避という流れが固まっていく可能性がある。
だが、本稿はそれでも衆参同日選を断行したほうがいいのではないかと考える。それは、巷で語られていることとはまったく違う観点からである。本稿が、同日選をやったらどうかと考えるのは、「2019年7月までの、3年間の選挙のない期間」が得られるからである。