成功する「メディアミックス」とは

佐渡島 あと、本に書かれていた「成功するメディアミックスは、家訓を再定義すること」っていうのも、まったく僕がメディアミックスするときに考えていることなんですよね。やっぱりちょっと、違うことをやらないといけない。でも軸は一緒です。それぞれのメディアごとに特徴が違うので。

三木 『宇宙兄弟』のアニメと実写映画、原作のすみ分けは素晴らしかったと思いました。あれはプロデューサーの川村元気さんの手腕が凄いのかなと思いつつ、チームのマインドを一致団結して、これで行こうと決め込めたところが成功の秘訣なのではと感じました。

佐渡島 ただ三木さん、本に、「メディアミックスでは空気を読め」って書いていたじゃないですか。あれに僕は失敗したなと思って。映画のほうなんですけれど。

三木 え!? そうですか? ユーザーとしては全然思わなかったですけど!

佐渡島 いい映画だから、もっと流行ってもいいと思っていたんです。ちょうど同時期に『テルマエ・ロマエ』があったんですよね。で、『テルマエ・ロマエ』のほうがずっと大ヒットしちゃって。

 僕と川村君は震災の後、人々が元気になって目標に向かうのを応援するような映画にしようって話をしました。でも、応援とかよりも、ただ笑いたいっていうのが社会の空気だったから。もっとユーモアを強くしないと、あのタイミングでは大流行にはならなかった。

三木 なるほど。

佐渡島 僕と川村君の時代の空気の読み違えっていうのがあったなぁとは思って。そういうことを三木さんの本を読んで考えました。

三木 確かに広いマスを狙う考えとしてはとても正しいですね。ただ、原作既読ファンの僕から言うと、「原作で(まだ)見ることができない姿の理想型」を映画で表現してくれているので、大成功ではあるんですよ。

 メディアミックスって、ときに原作ファンが疲れ切って去ってしまうという不幸な現象も生んでしまいます。それとは真逆で、既存ファンに良いメモリアルを見せてくれた……というのが『宇宙兄弟』の印象でした。

佐渡島 ありがとうございます! 高評価でうれしいです。

三木 あの映画を観た後、「今度は原作で、あの2人が一緒に月から地球を見るのはいつになるんだろう」という楽しみ方ができますし、原作ファンはすごくよかったって思ってらっしゃる方が多いんじゃないかなとは思いました。

佐渡島 そうですね。映画の終わり方って、ほとんど原作を始めるときにイメージしていた終わり方なんですよ。小山さんに「この締め方は、もう映画にあげちゃいましょう」と。それで、僕らはもっともっといい終わり方を考えて、それによって自分たちのハードルを上げましょうって話し合っていました。

三木 だから素晴らしいと思ったのかも。原作のもともとのエンドイメージですもんね。

佐渡島 『面白ければなんでもあり』には、そんなメディアミックスのときに、三木さんがプロデューサーとしてどう動いているかの作法が公開されてて、僕自身すごく勉強になりました。

できる人のメールはテンションが高い

佐渡島 あと、「打ち合わせは常に明るく楽しくしなきゃいけない。なぜなら打ち合わせはダメ出しだから」って書かれていたのも、本当にそうだなと思いました。だからある種ピエロ的にバカなことを言うのも、編集者にはすごく重要で、賢くても意味がないっていうのはいつも思うことです。

三木 僕も常々そう考えて動いています。

 例えば、作家さんが凹んでいるときにどうするか。もちろん編集者も一緒になって悲しむという方法もあると思うんですけど、それだとなんというか精神的成長が見込めず、作家さんが前に進めなくなってしまう気がするんです。

 どんなときでも明るく楽しく振る舞って、作家さんが「あの悩んでたのはなんだったんだろう?」と思ってくれるぐらいに、暑苦しくバカやったほうが、「人生の谷から登り始める」という仕切り直し感があるというか……これは編集者のスタイルの問題かもしれませんが、とにかくいつも僕はそうしています。

佐渡島 僕は「作家とどうやって打ち合わせするんですか」って聞かれたときに、「作家ごとに変えてます」っていつも答えていて、そこも三木さんと全く同じ考えなんですよね。

三木 でも唯一共通しているのは、いろんな作家さんやイラストレーターさんから、三木さんのメールは元気が良すぎて気持ち悪いって言われるんですよ(笑)。たしかに僕、気が付けば「!」を多用していて……。気持ちを伝えたいことが前に出すぎてるのかもしれません。

佐渡島 僕も、ビックリマーク多いですねって言われて(笑)。見てみたら、全部の文に「!」がついていて、これアホだなぁと思って。それでたまに「。」を入れるように書き直すんですよね(笑)。

三木 いや、でも、メールって、1.5倍くらい冷酷になるじゃないですか。だから全然いいと思いますけどね。機嫌悪いのかなと思われるくらいなら、「こいつ、やたら元気だな」って心配されるほうがいいかなと。

佐渡島 そうですよね。LINEとかだとそこが大丈夫になるんですもんね。『面白ければなんでもあり』には、そういう打合せの方法から、一緒に仕事をしている人とのアライアンスの組み方まで書かれていて、一般のビジネスマンの人でもかなり役に立つ内容になっていると思いました。

※続きは明日公開します