制御できない状況で
いつまで逆噴射を続けるのか

 いったい大和部長はどこで間違ったのか。「課長クラスが、採用数の確保と厳選採用とを両立させる選考をできなかった」「それを人事部が訓練すべきだった」「応募者数だけでなく、進捗そのものを、注意深くトラッキングするべきだった」「面接担当者の疲弊が役員面接への進捗を遅らせていると思い込んだ」「そもそも人材紹介会社含めて6ヵ月で300人も候補者を送り込ませる、というような採用市場だったかの見極めができていない」などなど、突っ込みどころ満載の実例である。

 私には、大和部長の振る舞い以前に、深刻な問題があるように思える。この事例は、いわば逆噴射経営の典型例なのだ。

 逆噴射経営とは、経営者が、相反する目標をほぼ同時に指示することだ。この例の場合だと、現時点の人材の充足という噴射と、10年後の中核人材の充足という別の目的の噴射を、時をおかず、あるいは同時に行った。

 橘社長は、これを間違いだと思っていない。「二律背反する経営判断など山ほどある」「それを同時に推進すること、経営の知恵である」「それが実現できない、大和部長の問題だ」と考えている。しかし、この考え方こそが、逆噴射経営の罠である。

 H社は、大和部長や、部長会の他のメンバーも含めて、この逆噴射状況をコントロールできていない。制御できていないから、逆噴射状況になる。部下たちの手に余る指示を出してその後は放任しておき、結果として大問題に発展しているのだ。これはつまり噴射する者=社長の責任ではないのか。明らかに状況がコントロールできていないのに、指示を噴射し続けたならば、迷走して墜落するか、意図せぬ場所へ飛んで行ってしまうことは明白だ。

 大和部長にまかせた後、折に触れて状況を確認することを怠った橘社長こそ、大混乱の最大の戦犯なのだ。このマネジメント手法を改めないまま、大和部長のみを更迭しても、H社は同じような間違いを繰り返すだろう。経営が混乱する事態になった場合には、部下の非を責める前に、自分が二律背反する目標を同時に部下たちに丸投げしていないか、よく考えてみる必要があるのではないだろうか。

※社名や個人名は全て仮名です。本稿は、個人の見解であり、特定の企業や団体、政党の見解ではありません。