開発の現場から夢を奪った
三菱自工不正の真の問題点
三菱自動車工業(以下、三菱自工)の燃費不正問題では、企業体質や現場のモラルなど様々な要因が取り沙汰されているが、一番の問題は三菱という大看板と、三菱自工という中小自動車メーカーの実態とのギャップが、開発の現場に無茶を押しつける一方で、夢を奪い取ったところにあるだろう。
図に示したのは、2015年の1年間の国内自動車登録台数を基にした乗用車(普通乗用車+軽自動車)の市場シェアである。レクサスがトヨタの1ブランドであると考えれば、事実上国内最下位のメーカーである。しかし、現在の益子会長が三菱商事から三菱自工の社長として送り込まれてきた当初、ランサーエボリューションなどラリーに強い三菱を代表する乗用車を含め、多くの車種の開発販売を中止し、モデル数を絞り込む一方で、日産との軽自動車の共同開発(日産は主に調達を担当していたので、事実上三菱単独での開発生産)や、将来を見据えた電気自動車の開発など、積極的な技術開発を主導していた。
これが、一定の規模のあるメーカーのやることであれば、問題にならなかったのかもしれない。当然のことながら、開発には開発費がかかる。開発費は固定費であるから、企業の規模が小さくなればなるほど開発費の捻出は厳しくなる。
一橋大学の延岡健太郎教授は、著書『マルチプロジェクト戦略』(有斐閣刊)の中で、自動車メーカーのシェアは車種が多くなればなるほど有利になるので、できる限り少ないベースモデル(親モデル)から派生モデルを多くつくり、車種数を増やすことが重要だと述べている。しかし三菱自工は、モデル数を削減しながら、軽自動車、普通乗用車、電気自動車と異なる技術ベースの車を総花的に開発してきていた。これが現場にきついしわ寄せになっていたのではないだろうか。
一方、同じ1ケタシェアのメーカーであるマツダやスバルは、内燃機関に開発ターゲットを絞り、ガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車でスポーティな走りをする車をつくるという明確なビジョンと、身の丈に合った開発を行っている。両社はシェアは低いものの、マツダは欧州で、スバルは北米で、それぞれ強いブランド力のある自動車メーカーとして、小さいながらも存在感を示している。