「こんな売れないものをつくっても仕方ない」
販売終了を回避できた理由とは?

 売れない理由は、単純に認知度が低かったからだ。「アルミ製の容器に入った冷凍うどん」はすでにカテゴリーを形成していたが、具入りの冷凍袋麺は、新商品だけに馴染みがなく、ユーザーの選択肢にあがることがなかった。

 また、戦略もちぐはぐだった。キンレイの営業は、スーパーのバイヤーから「なまじ味に自信があるから高級イメージで売ったのだろうが、高級品を求めて冷凍食品のコーナーに来る人はいない」と助言された。味で売るなら、百貨店などで販売すべきだったのだ。

 発売から3年も経つと、ついに終売が検討され始めた。社内で「こんな売れないものを作っても仕方ないじゃないか」と否定的な意見が大勢を占めたのだ。

 しかし彼らは、もう一度だけ商品を変え、再チャレンジする道を選んだ。08年、有名店に監修してもらった『ラーメン横綱』を200円台で発売、あえて安価な商品としたため年間販売数約10万食と、そこそこの結果が出た。これをきっかけに、同社はうどんにもテコ入れを行った。

 まず、具を見直して価格を300円台に下げた。同時に、簡便なイメージを打ち出すべく名前を『おうちで簡単!鍋焼うどん』として再度販売したのだ。こちらも年間販売数が約10万食に近づき、なんとか販売は続けられる程度の売上が確保できた。

 商品が売れなかった場合、こうした価格改訂や商品名変更は、多くの企業がトライしてみる戦略だろう。キンレイもここで当面の危機は回避できた。しかし、話はここで終わらない。キンレイはこれ以降、商品の内容がそのままなのに、一気に売上を伸ばすことに成功していくのだ。

 きっかけはオリックスがキンレイに資本参加し、経営に加わったことだった。新たな経営陣は、企業価値を高めるため同社のブランディングに手をつけた。

ブランドアイデンティティを示すポスターと、キンレイの福田暢雄氏。それまで会社のイメージがなかったキンレイは、オリックスの資本参加を契機に、コーポレートアイデンティティをつくり、企業価値を高めることに成功した

 有名企業には、必ず何らかのイメージがある。たとえばソフトバンクなら「次々新しいものを取り入れる挑戦的な企業」というイメージがあるだろう。これは、巧みなブランディングの結果。たとえば同社は、流行のアイドルや役者が現れると即座に犬のCMの脇役として起用する。常に「最先端を行っていますよ」というイメージを訴求しているのだ。

 では、キンレイは?

「社のイメージがなかったのです。アルミの容器入りの冷凍うどんも、袋入りの冷凍麺も、よく見れば『キンレイ』と書いてありますが、ユーザーは『キンレイ』がどんな企業か知りませんでした。アルミの容器に入ったうどんを食べたことがある人は多かったはずです。味に関しても信頼性は高かったでしょう。しかし、既存のユーザーが袋入りの冷凍麺を見た時、これが馴染みのある商品だとは、わからなかったのです」(福田氏)

 オリックスの資本参加後、ブランディングやマーケティングを得意領域とする会社と協同して自社内を徹底的に取材。コーポレートアイデンティティに「冷凍鍋焼きうどんの会社」を選択した。そして、袋入りの冷凍うどんにも、ラーメンにも、「なべやき屋キンレイ」のロゴを入れた。すると、商品に着目していなかったユーザーが、袋入り冷凍麺の市場にも入ってくるようになり、売上が伸び始めたのだ。

 その後、キンレイの企業価値が上がって、同社は月桂冠のグループ会社となり、新たな経営陣が着任した。そして、彼らの元で「最後の一押し」が行われた。