「道」とはたえまなく形づくっていくもの
本書を読み終えたとき、高村光太郎の詩『道程』の有名な冒頭の一節が脳裏に浮かんだ。
「僕の前に道はない
僕の後ろに道はできる」
マイケル・ピュエット、クリスティーン・グロス=ロー著/熊谷淳子訳
早川書房 245p 1600円(税別)
自分の進む先に決まった道があるわけではない。自分自身で切りひらきながら歩んでいくしかない。その歩みが人生という一本の道を作る。この一節には光太郎のそんな決意が込められている。
本書の原題は“The Path”。中国の思想家が「道」と呼ぶ概念からとったものだそうだ。
「道」というと何か固定されたものがそこにあるようなイメージを受ける。しかし著者は、「道は、自分の選択や行動や人間関係によってたえまなく形づくっていく行路だ」と書いている。光太郎が「道程」と題した詩の内容は、ぴったり本書の主題につながっているようだ。
本書の著者の一人、マイケル・ピュエット氏はハーバード大学東アジア言語文明学科の中国史教授。2006年より受け持つ学部授業の「古代中国の倫理学と政治理論」は、「経済学入門」「コンピュータ科学入門」に次いで学内3位の履修者数を誇っているそうだ。卓越した教授法により、ハーバード・カレッジ・プロフェッサーシップも受賞した人物だ。
もう一人の著者であるクリスティーン・グロス=ロー氏は、ウォール・ストリート・ジャーナルやハフィントンポストなどに多数寄稿するジャーナリスト。ハーバード大学でピュエット氏の講義を聴講し、東アジア史の博士号を取得している。
ハーバード大学といえば、言うまでもなくアメリカの次世代を担う者たちが通う大学だ。彼らエリートたちが熱狂的に支持する東洋哲学の神髄とは、いったいどんなものだろう。