ダイエー社長からマイクロソフト日本法人のトップに転じて2年。異色の経営者の眼に、日本のIT産業の課題はどう映ったのか。マイクロソフトの戦略とあわせて聞いた。

樋口泰行(ひぐち やすゆき)
1957年兵庫県生まれ。1980年大阪大学工学部卒業後、松下電器産業入社。ハーバード大学経営大学院でMBA取得。ボストンコンサルティンググループ、アップルコンピュータ等を経て、日本HP社長、ダイエー社長を歴任。現在マイクロソフト代表執行役兼CEO。著書に『変人力』『「愚直」論』(ダイヤモンド社)がある。

 日本は、企業社会に限らず、教育や医療、地方自治の分野においても、ITの利用に対する積極性や理解度は欧米に比べ依然として低いと思う。

 企業に関して言えば、ITの経営への生かし方というか、ITでレバレッジした国際競争力において、アジアの国々にも大きく遅れを取り始めようとしているのではないかと心配してしまう。われわれのビジネスにとっても、これは非常に悩ましくチャレンジングな状況だ。

 ITを戦略的にガバナンスを効かせて導入・運用できない原因は何か。それは、先人たちが指摘してきたとおり、次の二つに尽きると思う。まずレガシーシステムへのこだわりが強いため、新しいテクノロジーの採用に積極的になれない。また、その事と表裏一体の問題だが、発言権が強くパワーのある現場の声を優先するあまり、手組みで作り込んだアプリケーションが非常に多い。それゆえ、パッケージのアプリケーションに現場の作業を合わせるといった発想はなかなか取れない。携帯電話の“ガラパゴス現象”もこの日本的カルチャーの表れなのだろう。

 ただ、わわれれ(マイクロソフト日本法人)も偉そうなことを言える立場にはない。PC主体からエンタープライズのソリューションも手がける企業への転換は、米国本社や欧州よりも遅れている。私が社長に就任してからのこの2年間は、まさにその転換を図るための基本動作面の強化期間だった。具体的には、人材確保そして教育、あるいは体制作りといったことだ。遅れていたのは、日本市場だけでなく、われわれもまたそうだったのだ。

 つまるところ、PCの売上げは人口比例だ。その“量”の戦いで、日本が中国やインドにかなうはずがない。だからこそ、われわれは人口ではなくエコノミックパワー(経済力)に比例するソリューションビジネスを大きく育てていく必要がある。

 この戦略の成否を左右するのは、パートナーとの連携だ。きめ細かく顧客をカバーしてくれるパートナーに、マイクロソフトの商品を理解してもらい、担いでもらうことが、私の大きなミッションだと思っている。(談)

(聞き手/ダイヤモンド・オンライン副編集長 麻生祐司)