民主党代表選は菅直人首相の勝利で終わったが、国会議員票だけ見れば、僅差であり、むしろ小沢一郎前幹事長の善戦が目立った。現職の総理大臣という有利な立場にありながら、なぜ菅氏は苦戦したのか。飯尾潤・政策研究大学院大学教授に、代表選の結果分析と民主党政権の今後の課題を聞いた。
――民主党代表選は、菅直人首相(党代表)が小沢一郎前幹事長を破った。
政策研究大学院大学教授。博士(法学)。専門は現代日本政治論。1992年、東大大学院法学政治学研究科博士課程修了。93年、埼玉大学大学院政策科学研究科助教授、97年、政策研究大学院大学助教授、2000年より現職。この間ハーバード大学客員研究員(2001-2002年)などを兼務。『日本の統治構造』で07年にサントリー学芸賞(政治経済部門)、08年に読売・吉野作造賞受賞。 著書多数。
菅氏は二重に有利な状況にいた。逆に、小沢氏は二重に不利な立場にいた。第一に、現職の総理大臣を辞任させるのは、現実の政権運営においてリスクが大きい。第二に、小沢氏を総理大臣に選ぶのは、新政権3人目の総理であり、しかも大胆な政策展開を訴えているが、具体的なことはよく分からず、そのうえ、検察審査会による訴追の可能性があるなど、リスクが大きい。この二重のリスクが投票に反映されるのだから、菅総理が勝って当然だ。
それなのに、国会議員票では過半数を制したものの、わずか3人上回っただけだ。ぎりぎりで政権を維持する正当性は保った格好だが、国会議員票だけを考えれば、ずいぶん危うい勝利だ。菅総理に雪崩を打って票が流れる局面が予想されたのに比べれば、小沢陣営の善戦が目立つともいえる。
――なぜ、菅総理は苦戦したのか。
菅陣営は選挙戦に弱い。陣営幹部たちが、人をまとめ上げていく能力に欠いているように見える。また、肝心の菅総理が参院選以降、とりわけ代表選に入ってから、指導者としての精彩、迫力を欠いていたことが気になる。
――参院選の敗北や代表選後の党内融和を気にしていたからだろうか。
菅氏は代表になると――過去もそうだったのだが――、輝きが薄れてしまう。総理になっても、消費税を巡って一人で空回りしてしまった印象だ。野党の斬り込み隊長としては図抜けているが、指導者として、とりわけ受けに回ったときにとたんに弱くなる。状況を的確に把握し、事を運ぶ論理と順序を検証し、戦略的に動く、ということが苦手のように見える。何かにすぐに反応し、行動してしまう。こうした菅氏の政治的人格は、周囲からは軽く、頼りなく見える。菅陣営には、菅氏を優れていると褒めちぎる議員は極めて少ないのが問題だ。小沢嫌いゆえに応援する議員が大半だろう。