成毛 盗賊五人衆が主役の舞台ですね。歌舞伎を見たことがない人でも『知らざあ言って聞かせやしょう』というフレーズはご存じのはず。あれは、盗賊五人衆の一人である弁天小僧が、女装して悪事を働こうとしたところ正体を見破られていきなり開き直り、名乗りを上げるときのセリフです。

おくだ・けんたろう
歌舞伎ソムリエ。1965年名古屋市生まれ。大学入学で上京後、1年半のアメリカ生活を経て歌舞伎に熱中。歌舞伎座の立ち見席に通いつめ、イヤホンガイドの従業員を経て解説担当者となる。NHK教育テレビでの歌舞伎の入門番組や東工大世界文明センターなどで講師を歴任。ミラノ スカラ座の来日公演などではオペラの字幕も経験。http://okken.jp/ Photo: K.S.

おくだ 『知らざあ言って聞かせやしょう/浜の真砂と五右衛門が/歌に残せし盗人の/種は尽きねえ七里ヶ浜/その白波の夜働き/以前を言やあ江ノ島で/年季納めの稚児ヶ淵…』といった具合に続き、最後は『弁天小僧菊之助とは俺がことだぁ』。

“バレる・イバる・自己紹介”

成毛 (ボソッと)まるでラップだよなあ……。

おくだ そうですね。それに、歌舞伎の悪者はことごとくこのパターンなんです。最初は他人を装っているのですが必ず正体が露見し、そこで逃げるかというとなぜか開き直り、自分が何者かをイキイキと述べる。つまり、“バレる・イバる・自己紹介”です。

成毛 ははあ、なるほど。

おくだ そして自己紹介で語っているのも生まれ育ちや前科ですから、あのセリフは要するに日経新聞の『私の履歴書』みたいなものなんです。

成毛 まさにそうですね。

おくだ だから、舛添さんも悪事がバレたときにイキイキと私の履歴書を語るようにイバっていれば、案外、許されたかもしれません。歌舞伎では、悪人が“バレる・イバる・自己紹介”を貫くと、周りはなんとなく許してしまうものです。

成毛 よくわかります。しかし、“バレる・イバる・自己紹介”も日本語ラップのようですね。もう、忘れたくても忘れられません。

おくだ 感覚的にわかってもらうには、こういった表現の工夫が必要だと思っています。『違法ではないけれど不適切』や『第三者の厳しい目』とは違い、『痛みに耐えてよく頑張った、感動した』とか『自民党をぶっ壊す』など、感情に訴える言葉を使うのがうまいのは小泉純一郎さんですが、このあたりは、ビジネスパーソンもプレゼンや会議で参考にしてほしいですね。