「顧客はすべてお見通し」
「ブランディングは効かない」
「ポジショニングやロイヤルティ戦略も、もはや有効ではない」
挑発的な邦題に負けないくらいの大胆な宣言ではじまる異色のビジネス書『ウソはバレる』。いったいなぜ、モノやサービスを「売るための戦略」は通用しなくなってきたのか。もし本当に通用しないなら、私たちはどうやって売っていけばいいのか。翻訳した千葉敏生氏の「訳者あとがき」からそのヒントを探ってみたい。

ステマからブランドの本音まで
顧客はすべてお見通し!

 超情報化時代の到来により、商品やサービスを購入する消費者側にとってはとても便利な時代になった。

 価格比較サイトを見れば商品の価格相場がひと目でわかるし、レビュー・サイトを訪れれば商品の良し悪しがすぐに確かめられる。私自身も、衝動買いする寸前にレビュー・サイトをチェックしたおかげで、無駄な買い物をしなくて済んだ経験が何回もある。

 その反面、商品やサービスを売ろうとしているマーケター側にとっては、非常に厳しい時代となった。

 商品を高額商品と並べて陳列することで割安に見せたり、自画自賛の広告で商品をアピールしたりしようとしても、価格比較サイトやレビュー・サイトを調べられたら、真実が一発でわかってしまう。マーケターがあの手この手の策を講じて消費者を購入へと誘導しようとしても、情報を握っている現代の消費者にはすべてお見通し。つまり、「ウソはバレる」ということだ。

 それどころか、ウソやトリックに頼る企業は、消費者から重い罰を受ける時代にさえなった。ひとたび消費者から不誠実とみなされると、SNSは大炎上。従来なら多少強引でも有効だったマーケティング手法は、現在の環境ではリスキーな戦略にもなりうる。

 そんな新時代の斬新なマーケティングの考え方を提唱するのが、本書『ウソはバレる』(原題:Absolute Value)の著者のイタマール・サイモンソンとエマニュエル・ローゼンである。本書の冒頭でも触れられているとおり、マーケティングの第一人者として、かつて従来型のマーケティング手法の効果や消費者の不合理性を盛んに訴えていた2人が、新時代に直面して考え方を改め、本書を記したというところが何ともユニークだ。

 2人は本書で、原題にもある「絶対価値」というキーワードを用いながら、従来のマーケティングの常識にことごとく疑問を投げかけ、新時代のマーケティングの考え方、新しいマーケターの役割を提唱している。著者のいう「絶対価値」とは、商品やサービスの絶対的な価値、本質的な価値という意味。「必ず」という意味の「絶対」(「絶対に正しい」「絶対の法則」)ではなく、「相対」の逆の意味の「絶対」(「絶対値」「絶対評価」)だと思って読んでいただけると、わかりやすいのではないかと思う。

クリック1つで商品やサービスの絶対価値がわかる時代になったことで、ブランディング、ポジショニング、セグメンテーション、ロイヤルティ、説得など、従来のマーケティング手法の効果は弱くなっている。「このブランドが好きだから」「お店で大々的に特集されていたから」「1つ前の製品を使って満足したから」などの理由で商品を選ぶ消費者は少なくなり、その商品自体の本質的な価値を購入のつど見極めようとする消費者が増えているのだ。もちろん、著者もさいさん断っているとおり、この傾向がすべての消費者、商品やサービスのカテゴリーに当てはまるわけではないが、全体としては、従来のマーケティング手法は意味を失いつつある。