Yahoo! JAPANのエリア・オンライン営業本部が、部門全体で社外プレゼン方式の統一化を進めている。これまで、地域ごと、個人ごとでバラバラだった資料作成ノウハウを共有化することで、ベテランと若手の営業成績にあまり差がつかなくなるとともに、地域ごとに異なった「伝わり方」も平準化することができたという。何より、お客様からの反応がポジティブになったことで、組織が活性化している。『社外プレゼンの資料作成術』の著者である前田鎌利氏が、同本部長の福山広樹さんと、同部署で人財開発を担当する櫛屋昂平さんに、その秘訣を聞いた。(構成:崎谷実穂)
お客様のアンケートで「わかりやすい」という声が増えた
前田鎌利さん(以下、前田) Yahoo! JAPANさんで研修をおこなった時は、まだ『社外プレゼンの資料作成術』が出る前だったのですが、「社外のプレゼンにも応用できる話を」というご要望をいただいていたので、そうした話もさせていただきました。こちらについて、研修を受けて変わったことはありますか?
ヤフー 櫛屋昂平さん(以下、ヤフー・櫛屋) 変わってきましたね。「課題」→「原因」→「解決策」→「効果」というストーリーが明確になったのが、一番の変化だと思います。お客様に理解していただきやすいプレゼンになったのです。また、研修前は、それぞれが好きなように資料をつくっていたので、作成スピードやクオリティに差が出ていたのですが、研修によって若手の新卒社員でもベテランの中途社員でも、同じ時間で同じクオリティの資料が作成できるようになりました。意識と能力の均一化がはかれたのは大きいですね。
前田 研修の際に、現状ではトークに頼る営業が多いために、「ベテランのほうが成績がいい」というお話をうかがいました。資料作成の意識と能力の均一化をはかることによって、営業成績にも影響が出てくると思いますが、いかがですか?
ヤフー・櫛屋 出てくるでしょう。わかりやすい資料になることで、“トーク力”に依存する割合が減ることになりますし、資料作成の時間が短縮されることによって、空いた時間でトーク内容を練ったり、新しい提案を考えたりできるようになるからです。クライアントへの提案に限らず、新規事業のアイデアを考えることもできます。それぞれ工夫の余地ができることによって、結果的に個人の成績も大差がつかなくなってきているように感じます。
ヤフー 福山広樹さん(以下、ヤフー・福山) 組織のマネジメントをしている私も、時々、営業現場のスタッフと一緒にお客様先に行くことがあるんですが、商談の質が確実に上がっていますね。以前は、2時間いただいていても、ずっと話してるだけだったりしたんですよね。でも、資料が体系化されたことにより、大事な情報が端的に伝わるようになりました。だから、こちらの提案を手短に行って、それをもとにお客様との意思疎通にじっくりと時間をかけられるようになりました。営業の時間の使い方がうまくなっていると思います。
ヤフー・櫛屋 また、私たちが所属するエリア・オンライン営業本部では、社外の方に対して勉強会を開くことも多いんですが、その反応もグッとよくなってきました。
前田 どんな方に、どういったことを伝える勉強会なんですか?
ヤフー・櫛屋 地方の中小事業者様や広告代理店様に向けて、インターネットを活用して事業成長をするにはどうしたらいいのか、というソリューションをご説明する勉強会ですね。その勉強会のスライドも、前田さんの研修と本によって改善しました。スライドが変わったことによって、受講後のアンケートでも「わかりやすい」というポジティブな意見が増えたんです。
前田 それはうれしいですね。
研修をきっかけに「伝える相手」を意識し始めた
ヤフー・櫛屋 やはり、研修によって「なぜそうするか」ということを理解できたのがよかったですね。どこにどんな写真を入れるか、どんな色・フォントを使うか、数字をどう表記するか、というテクニックは見よう見まねでもできる。けれど、それだけでは効果が出ないと思うんです。
ヤフー・福山 そう、「ソフトバンクの資料はいいらしい」と以前から評判でしたけど、やり方を表面的に真似するだけでは、伝わる強度は真似できないですよね。前田さんの研修や本で「どうしてそういう見せ方にするのか」ということを理解できたから、お客様への伝わり方が変わったんだと思います。
前田 それは、嬉しいです。写真の使い方ひとつとってもノウハウがありますが、もっとも重要なのは「相手」に合わせるということなんですよね。たとえば、家事代行サービスの社外プレゼン資料を想定してつくった、このスライドをご覧ください。
これは、プレゼンの対象が「主婦」の場合の写真です。洗濯物を干す人の「目線」の写真を使うことによって、「そうそう、これが面倒くさいのよね」という感情をもってもらえます。一方、次のスライドは、普段は家事をしない人に対するプレゼンで使う写真です。
これを見れば、「いつも負担をかけているな……。家事代行サービスを頼めば少しはラクしてもらえるかもしれない」などと、プレゼン内容に興味をもってもらいやすくなるわけです。このように、プレゼン・ノウハウにはすべて理由があります。これを、しっかり身につけるかどうかで、効果はまったく違ったものになりますね。
ヤフー・櫛屋 そうなんです。そこを、しっかり理解できたのがありがたいですね。また、勉強会は2時間かかることもあります。受講者を飽きさせない工夫も必要です。そのあたりも、アニメーションや動画の活用など、惹きつけるテクニックが学べてよかったです。
前田 社外の営業資料、勉強会スライドで、独自に気をつけていることはありますか?
ヤフー・福山 地方の中小事業者様のなかには、インターネットやマーケティングのリテラシーが高くない方もいらっしゃいます。でもそういう方に対して、インターネットやマーケティングの専門的な内容を伝えなければいけない。そこで、相手に伝える表現方法を探すということは全員に徹底してます。
ヤフー・櫛屋 横文字は極力使わずわかりやすい表現に置き換える、エリアに合わせて身近な案件を事例化する、といった工夫をするようにしているんです。
ヤフー・福山 Yahoo! JAPANのサービスを使われていない方に対し、インターネットを使ったソリューションを啓発していく活動もしているので、どんな人に対しても私たちのサービスを理解していただけるよう、表現を探しています。
前田 ところで、これまでそうしたプレゼンは、拠点ごとにスキルアップをはかっていたんですか?
ヤフー・福山 そうなんです。拠点ごとどころか、個人に任せていた部分があり、場所によって言っている内容が違ったり、資料のテイストが違ったりしていました。そこはずっと課題でしたね。
ヤフー・櫛屋 勉強会も、各拠点で講師となる社員の経験・スキルがバラバラで、それゆえに教え方も差が出ていた。同じ資料でも講師が違うと、受講後のアンケートの理解度にばらつきが出ていたんです。だから、前田さんにお願いした研修は、オンラインで拠点をつないで全員で共有することにしたんです。その結果、プレゼンの仕方や伝え方をある程度統一化できたと思います。いわば、「組織」としてのプレゼンができるようになったんです。
ヤフー・福山 一番重要なポイントは、みんな研修をきっかけに、伝える相手を意識し始めたということですよね。相手が違うと、伝え方も違う。今までは自分が伝えたいことを中心にプレゼンを組み立てていた。それを、相手を中心にして考えるようになったのはすごくいい効果だと思います。
最終的に結果を左右するのは「強い気持ち」
ヤフー・福山 また、前田さんは本の中で「念(おも)いの弱いプレゼンは結果を出せない」と書かれていますよね。
前田 はい。プレゼン資料を作るときは、まず「念い」を固めることから始めてほしいんです。「おもい」には「思い」「想い」「念い」がありますが、それぞれ意味が違います。「思い」とは「頭で考えること」、「想い」とは「心に芽生える気持ち」、「念い」とは「絶えず気にしていること、強い気持ち」という意味。そう考えると、企業理念に「念」の文字が使われている理由がわかる気がしますよね?この「念い」がないと、いくら凝ったプレゼン資料をつくっても、相手の心には響きません。
ヤフー・福山 そこはすごく共感します。最後は、どれだけ提案者の気持ちがこもってるかだと思うんです。それは、自分が決裁をする場合も同じ。強い気持ちがあふれている提案は、説得力もあるし情熱も伝わってくる。決裁するときも「よし、この案件を応援しよう」と思います。だから、私はよく営業や企画職に対し、「魂を込めてくれ」と言うんです。
前田 ああ、それは「念い」と同じですね。すごく重要なことだと思います。最後に、Yahoo! JAPANさんでは、今後プレゼンでもっとこうしていきたい、という改善点はありますか?
ヤフー・福山 資料は作成できるようになったので、次は資料を使ってどう伝えるかというところだと思います。『社内プレゼンの資料作成術』の最後の章にもありますが、どう話すかという部分ですね。
ヤフー・櫛屋 声のトーンや抑揚、どこを強調するかなど、そうしたところは実践を通じて磨いていければと考えています。あと、本の表紙に「3分で1発OK」とあるのですが、そこがまだ我々はできていないかなと。限られた時間で限られたメッセージを伝える力が、まだ足りない。時間と資料のバランスをつかみきれてないので、そこの部分はもっと伸ばしていきたいですね。
ヤフー・福山 私たちの最終目標としては、お客様を笑顔にしたいと思っているんです。でも、まず何よりも、自分たちが笑顔になっていないと、それはかなえられませんよね。だから、部下の勤務環境の改善やモチベーションアップというところは、これからも追求していきたいと考えています。
ヤフー・櫛屋 人材開発担当としては、今後ハード面の施策に取り組みたいですね。ソフト面の施策はこの1年いろいろやってきたので、もっとそれぞれを成長させる制度を本部としてもつくっていきたい。メンバーがそれによって元気になれば、お客様を笑顔にするというところにもつながると思っています。
前田 御社が取り組まれる「念い」の実現に、私の研修や本を活かしていただけたら、とてもうれしいです。今日は、貴重なお話しをいただき、本当にありがとうございました。
(おわり)