EU離脱の交渉を担う英国の首相は、近く行われる保守党の党首選挙で決まる。「残留支持」だったメイ内相が有力視されているが、誰がなっても英国に都合のいい離脱など夢物語だ。交渉に時間をかけ、民意の逆転を待つ、という現実路線が模索されるだろう。だがそれで収まるだろうか。

 冷静な損得勘定を超え「EU離脱」に駆り立てた力は、現状に対する憤懣だった。実質賃金は下がり、雇用不安、年金や福祉予算の削減。景気がいいはずの英国でも将来不安が広がり、格差が大きな問題になっている。これらはEU加盟がもたらしたものではない。世界のどこでも起きている問題なのだ。

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 同じことがアメリカでも起きている。トランプ現象は既成の政治家への不信の表れである。社会民主主義者を自認するバーニー・サンダースが善戦したのも、これまでなら、ありえなかったことである。不人気なヒラリー・クリントンは、エリザベス・ウォーレン上院議員に応援を求めた。ウォーレンは筋金入りの反金融資本、「ウォール街包囲作戦」の理論的支柱でもある。金融資本は穏やかではない。仲良しのはずのヒラリーが「天敵」と手を組んだのだから。

 隠然と政治を差配してきたシティやウォール街が民意に晒されている。冷戦が終わった後、世界を覆ったアングロサクソンの金融資本主義に経済弱者が今、反抗しはじめた。

「EUを敵に仕立てた
ポピュリズム」の無残な失敗

 熱狂に包まれた国民投票から2週間。英国で歴史的勝利を果たした離脱派に高揚感はない。ボリス・ジョンソン前ロンドン市長は保守党党首選を辞退、英国独立党を率いたファラージュ氏も党首を辞任した。先頭に立つべき2人が、さっさと渦中から消えた。

「オークションでふざけた値を付けて、まさかの落札に青ざめる冗談野郎のよう」

 フィナンシャルタイムズは二人をそう表現した。国民投票は、「EUを敵に仕立てたポピュリズム」の無残な失敗を見せつけた。

 英国を苦しめるのは、国家より上に立つ「EU官僚」、あなたの雇用を脅かしているのは移民や難民、EUから抜ければ英国は自由を取り戻し、繁栄する――。

 政治家たちは事実を誇張して危機感を煽り大英帝国への郷愁を誘った。それが今になって「EUへの分担金を国民健康保険に回す」というド真ん中の政策を「誤り」と撤回した。