佐川急便などを傘下に置くSGホールディングスグループでは、クラウド・コンピューティングを活用したITの構造改革が進行中だ。そのカギはベンダー・ロック・インからの脱却である。すでに新貨物系システムなどが稼働しており、調達や運用のコスト削減などの面で大きな効果を実現。この取り組みをさらに推進して、グループ全体最適のITを目指している。(この記事の内容は、6月30日に開かれた「クラウド・コンピューティング戦略セミナー Part1~成功するクラウド導入のポイント~」で講演されたものです)
ベンダーからユーザー企業に
ITの主導権を取り戻す
物流業界において、ITの果たす役割は大きい。モノの動きを管理する貨物系システム、顧客への請求などを担う勘定系システムを中心に、多種多様なシステムがそのビジネスを支えている。佐川急便をはじめ13の事業会社を抱えるSGホールディングス(SGH)グループにとって、IT戦略は経営戦略そのものと言っても過言ではない。
SGHグループがIT構造の見直しに着手したのは、2005年ごろ。以前のITが抱えていた課題について、SGH経営戦略部IT戦略課長の三原渉氏はこう説明する。
「ひと言で言えば、ベンダー・ロック・イン。ベンダーが個別に各事業会社または事業部門にアプローチし、受注していました。グループ内には264のシステムがあり、各システムがITベンダーに依存した状態でした」
各システムには、ITベンダーの独自技術がさまざまなかたちで盛り込まれており、ちょっとしたトラブルの発生時、あるいはシステム拡張が必要な時には、特定のITベンダーに依頼せざるをえない。その結果、高コスト構造が温存され、ITガバナンスも不十分だった。
このようなITの現状を変革して、主導権をユーザー企業側に奪還する。それが三原氏たちの目指したことである。その方針は「集中と分散」。三原氏は「グループITの集約による効率化、その一方では各事業会社の独立性と機動性が確保できるIT構造を描きました」と語る。
こうして、グループ全体最適を目指して、05年に「F-CUBE」プロジェクトがスタートした。
IAサーバに移行した
新貨物系システムの成果
F-CUBEの中核的なプロジェクトが、新貨物系システムの構築である。メインフレームで動いていた従来のシステムはベンダーにロック・インされており、拡張や運用のためのコストがいちいち割高だった。これをオープン化し、低価格のIAサーバに切り替えたのである。
「以前はメインフレームで行っていた膨大な処理を、汎用的なサーバを多数並べて代替しました。そのためのキー・テクノロジーがグリッド技術です」と三原氏は語る。グリッドとは、複数台のコンピュータを1台のように扱う技術。この新貨物システムにより、大幅にコストを削減できたと三原氏は言う。
「旧システムの時代、年末の繁忙期には毎年のように数十億円規模のハードウエア投資が必要でした。新システムが稼働してからは、IAサーバを数台追加するだけなので数百万円。サーバの追加も非常に簡単で、1時間程度ですみました」