ビジネス・スピード向上やコスト削減など、さまざまなメリットを享受できるクラウド・サービス。前編では、パブリック・クラウド導入に関する四つの不安とその解決策を紹介した。後編では、クラウド導入で起きやすい失敗例と、成功のための条件を考える。(この記事の内容は、6月30日に開かれた「クラウド・コンピューティング戦略セミナー Part1~成功するクラウド導入のポイント~」で講演されたものです)
クラウド戦略を策定して
ITベンダーを上手に活用する
新井 智氏
「クラウドを上手に活用するためには、自社のクラウド戦略を持つことが重要。言い換えれば、ITベンダーに惑わされない考え方や方針の軸を持つということです」とフューチャーアーキテクト(以下、フューチャー)プリンシパルの新井智氏は述べる。
まず、自社のコア業務を明確にする必要がある。コア業務については自社で機能強化を継続し、それをビジネスの競争力向上につなげるのである。
次に、過剰な期待やサービス・レベルの見直し。日本企業はITのサービス品質に対する要求度が高い。「本当に現状のサービス・レベルが必要なのか。業務の内容を吟味すれば、過剰品質のものも見つかるはず」と新井氏は見ている。クラウドの導入を、高コスト体質のITを見直すきっかけにすることもできる。
既存のサイロ型システムを集約するという視点も重要だ。プライベート・クラウドとパブリック・クラウド、オンプレミスをいかに組み合わせて全体最適を実現するか。新井氏は「自社のIT戦略、クラウド戦略を示したうえで、ITベンダーに対して『この方針に沿った提案がほしい』と依頼する。そんなアプローチが求められます」と提案する。
さらに、クラウドの構成技術を正しく理解する必要がある。技術革新のスピードは速い。「技術動向をウォッチして、定期的に戦略の見直しをすべき」というのが新井氏の考えだ。
以上のようなクラウド戦略が不在または不十分だと、さまざまな不都合が生まれる。新井氏は「自社の戦略が曖昧なままでクラウドを導入すると、コスト・メリットを得られないばかりか、ITガバナンスの低下を招くこともあります」と語る。典型的な失敗例が図表2である。
「クラウド戦略を十分検討しないまま、既存ベンダーに提案を求めて失敗するケースが多い。既存ベンダーは自分たちの担当している業務について、自社のクラウド・サービスをベースにした提案を行うからです」と新井氏。サイロ型のIT構造が残され、複数のクラウドが並立する。これでは、ベンダー・ロック・インも温存されたままだ。
また、業務部門が自らの判断で、パブリック・クラウドを利用する場合もある。低コストのサービスは、部門決裁で簡単に導入されることがある。その結果としてデータは分散し、マスタ・データの二重管理が必要になるだろう。