ゲーム市場は大きな岐路に立っている。専用機を必要とするVRのブームに火がつきつつある一方、ポータブルゲームはスマホに移行している。こうした中で、後発参入の任天堂は既存の自社のポータブルゲーム機のプラットフォームにこだわらず、またDeNAとのスマホ向けゲーム開発提携にすらこだわらなかった。今回Google発のスピンアウトベンチャーと組むというフリーハンドぶりが、任天堂の強い武器になっているのではないか。
「ポケモンGO」についてはバブルとも言える大フィーバーぶりで、それが一段落した後に人気が継続するのか不安は残る。しかし、それはそれで良しとするのが任天堂らしさかもしれない。次々と新たな協力企業と組み、多様な商品やサービスを展開し続けることが、気まぐれな顧客に対応するために大切なことであり、自社の成功経験にしがみつかない方が良いだろう。
技術や市場の大きな変化の中では決め打ちをせず、様々な多様性を残しつつゲリラ的に様々なトライ&エラーを繰り返すことが重要である。これは、いわゆるBtoCビジネスには常につきまとう教訓である。
BtoC企業を取り巻く不確実性
鴻海はシャープのDNAを生かせるか?
気がつけば、BtoCが会社の表看板となっている大手電機メーカーは、ソニーとシャープくらいしかなくなっている。BtoBを表看板にしている企業は、BtoCよりも気まぐれで多様なニーズを持つ顧客に振り回されないで済むこともあり、それはそれで正しい選択をしていると思うが、BtoCのソニーやシャープはこれまで同様か、あるいはこれまで以上に不確実な市場に対峙しなければならない。彼らは、過去にしがみつかない経営を任天堂から学ぶことも大切だろう。
特にシャープは、超効率的企業である台湾鴻海の傘下で経営再建中である。効率的企業は、効率性と引き替えに多様性を失いがちである。EMSとしての鴻海にはBtoCの不確実性に向き合う多様性は不要であったが、シャープはEMSとは異なる。様々なトライ&エラーを容認し、ヒットするしないにかかわらず、新しい製品を次々と出していく同社の良さを単なるムダと切り捨てたら、鴻海にとってシャープという高い買い物の意味はなくなってしまう。効率性と多様性のバランスを鴻海がとれるのか、試練のときであろう。
「ポケモンGO」の思わぬ大ヒットを受け、筆者はそんなことを考えた。
(長内 厚・早稲田大学商学学術院大学院経営管理研究科教授)