「年収の壁」引き上げは真の物価対策なのか?矛盾を解消する「給付付き税額控除」の具体案「年収の壁」を178万円に引き上げる合意書に署名した高市早苗首相(中央右)と国民民主党の玉木雄一郎代表(同左)=12月18日、国会内 Photo:JIJI

自民・維新・国民民主・公明の4党合意に基づき、所得税の非課税枠の上限を160万円から178万円へ引き上げる方針が税制改正大綱に盛り込まれた。だが目的を「物価対策」とするなら、インフレ下の減税はむしろ物価を押し上げかねず、恩恵も中間層に偏る。矛盾を解消し、低所得層に重点を置いた減税策である給付付き税額控除の具体像を示す。(昭和女子大学特命教授 八代尚宏)

「物価対策」名目の減税に違和感
178万円「年収の壁」がはらむ矛盾

 12月18日の自民・維新・国民民主・公明の4党合意により2026年税制改正大綱が取りまとめられた。所得税の非課税枠の上限(いわゆる年収の壁)をインフレに連動して160万円から178万円へ引き上げることが大きな柱の一つである。

 これは国民民主党のほぼ公約通りの内容であり、高市早苗首相は、それと引き換えに26年度予算案への合意を勝ち取った。この所得税の非課税枠引き上げ措置は、一般に歓迎されているようだが、幾つもの矛盾をはらんでいる。そこには、高市首相の大きな公約である、給付付き税額控除の導入と矛盾する点も含まれる。

 第一の矛盾点は、この税制改正の主な目的は「物価対策」という説明である。一般に減税や政府支出の拡大は不況時に民間需要を喚起するためのマクロ経済政策の手段である。しかし、現実には足元の失業率は安定して2%台で推移しており、むしろ人手不足が問題となっている。

 こうしたインフレ時に減税することは異例であり、大幅に増加した補正予算と相まって、消費需要が喚起されれば、さらなる物価上昇をもたらすリスクの方が大きい。

 次ページでは、「年収の壁」引き上げのさらなる矛盾点を取り上げ、インフレ時の物価対策として望ましい給付付き税額控除の具体案を提示する。