株をシュレッダーで切り刻む
よりも怖い海外への持ち出し

――これまで手掛けた案件で印象深いものはありますか。

中島 2007年に新聞でも報道されましたが、神奈川県川崎市のストック・オプションに関する滞納事件ですね。

 かなりの滞納額でしたが、おそらく本人は、相当財産を持っていたと思います。しかし、それが一向に見つからない。自宅をはじめ、さまざまなところを捜索しました。やっと見つけたのが株券です。

 しかしこの資産家、なんと、「このまま国に取られるくらいなら」と、株券をシュレッダーにかけてしまったのです。それにはさすがにびっくりしました。

 とはいえ、別にシュレッダーにかけても、証券会社の株主名簿に名前が記載されていますので、徴収の場合、財産がどこにあるのか分かれば差し押さえは可能ですから、株券自体がなくても支障はありません。

 ただ、最も恐れていたのは海外へ逃げられることでした。海外に財産を持ち出されると日本の国税徴収法では差し押さえができません。

 今は多くの国と租税条約が結ばれており、外国にある財産でも条約締結国の課税当局に差し押さえてもらって現金化し、日本に戻すことは可能なのですが、実際に実行するとなると、手続きがかなり大変なのです。

――ところで、国税庁の公売で売れ残ったものは、どうなるのですか。

中島 順次値段を下げて、何とか売り切るのが通例です。ですが、売れなかったら市場価値なしと判断し、差し押さえ財産を解除します。

 顕著な例は、バブルの頃に原野商法(注2)で騙された人たちの土地で、当時、国税局もそれら土地を差し押さえましたが、売るに売れず、ほとんどの差し押さえを解除しました。

 差し押さえが解除されると財産は滞納者に戻ります。滞納者も売れないことは承知しているのですが、意外にも差し押さえの解除を喜ぶのです。というのも、彼らの目的は、その土地を担保に銀行から借り入れをすることだからです。

――2015年の相続税増税の影響で、相続税申告件数は増えているようですが、国税徴収部門も相続関係の事案は増えていますか。

中島 増えてはいないと思いますよ。相続税が課税強化されたからといって、そのことで滞納が増えるわけではありませんから。

 滞納が多いのは、統計では1位が消費税、2位が源泉所得税です。昔は源泉所得税が1位でしたが、消費税が導入されてから1位の座を空け渡しました。

 統計だけで考えると、消費税が10%になると滞納額が増えるように感じられますが、おそらくは、さほど滞納件数は増えないと思います。

 

注2:原野商法  1960年代から80年代に社会問題となった、原野などの価値の無い土地を詐欺目的で売りつける悪徳商法

(構成・「KaikeiZine」編集長・宮口貴志) 

■一般社団法人租税調査研究会
国税調査官、税務署長など国税出身の税理士により、適正な税務判断と適正納税のための総合的な税務審理アドバイス、調査対応支援を目的に設立。企業の財務・会計担当者や会計人向けセミナー、個別相談対応の他、執筆活動なども行っている。 http://zeimusoudan.biz/