「パナマ文書」が流出し、タックスヘイブンを利用する個人と企業が明らかになったことは各方面に大きな衝撃を与えた。実際、資産は海外に移転してしまうと実態がつかみにくくなるようだが、日本の課税当局は、「富裕層」の海外保有資産情報の収集に相当の力を入れている。第1回で紹介した「国外財産調書」の他にも、さまざまな“包囲網”を張り巡らせている実態を紹介しよう。
「富裕層」の何割くらいが
国外財産調書を提出した?
世界の名だたる政治家や富豪、有名企業などがタックスヘイブンに資産を移転していたことが明るみに出た「パナマ文書」には、約400件の日本の個人や法人の情報も含まれていることも判明。
恐らく、課税当局が把握できていないお金の流れもかなりあったのではないかと推察される。
というのも、税法の効力が及ぶのは国内のみ。資産が一旦海外に移転されてしまったら簡単には課税できないことから、「究極の課税逃れ」と思われる向きもある。しかし、課税当局も黙って見ているだけではない。
ここ数年は、「富裕層」の国外保有財産の把握や金融資産の動きの監視に特に力を入れている。
その中心的施策が、第1回でも紹介した「国外財産調書」の申告制度だ。
「国外財産調書」は、その年の12月31日時点で5000万円を超える国外財産を保有している「居住者」(注1)と、「非永住者(注2)を除く外国人居住者」に、自主的な申告による提出が義務付けられている。
もし、提出しなかったり虚偽記載がある場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられるほか、国外財産から生じた所得などに申告漏れや無申告が発覚した場合は、さらに罰金が加算されるなど厳しい内容だ。
国税庁の発表によれば、2014年分の「国外財産調書」総提出件数は8184件で、2013年分よりも2645件(47.8%)増えている。とはいえ、これはあくまで自主申告の範囲。申告されない国外保有財産は、基本的には把握が困難だ。
8184件という総提出件数をどう見るかはさまざま意見のあるところだが、第1回で紹介した「富裕層」の数の推計(注3)などと比較すると、「国外財産調書」はまだ浸透の途上にあるのでは、という推測もできるのではないだろうか。
注1 居住者:所得税法の定義で、国内に「住所」を有し、または、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいう
注2 非永住者:所得税法の定義で、居住者のうち日本国籍がなく、かつ、過去10年以内の間に日本国内に住所、または居所を有する期間の合計が5年以下である個人をいう
注3 :野村総合研究所「日本の富裕層は101万世帯、純金融資産総額は241兆円」(2014年11月18日)による