かなり臨機応変な施設のCCRC

 前回に引き続き、米国東海岸で視察してきたCCRCについて考えてみる。

 ボストンの西北、チャールズ川を渡った先のケンブリッジ市にあるCCRCの「ネビルプレイス」を訪ねたのは6月20日の午後だった。マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学を抱えるケンブリッジ市は、風格のある街並みでさすが学術都市という感じだ。

 ネビルプレイスは、シニアリビングの入居者が61人、認知症の人のグル―プ(メモリーケア、MC)が15人、そして同じ敷地内に重度者のナーシング・ホーム(日本の特養)が建ち、112人が入居している。

「ネビルプレイス」は同じ敷地内に2つの建物がある
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 シニアリビングの入居者は、常に介護が必要になると隣のナーシングホームに移る。要介護度が進んでも、同一事業者の別の建物に移ることができるのがCCRCである。

 ナーシングホームの入居者の半数は、慢性疾患を抱えながら暮らしているが、あとの半数は骨折など急性疾患の後のリハビリのために病院や自宅からやってきた短期間滞在のショートステイの人たちだ。

 3階建てのシニアリビングの建物は一面にレンガ壁。ニューイングランドの古き良き時代の伝統的な公共建築を思わせる。玄関を入ると、小ぶりな共用ホールでトランペットの演奏が始まろうとしている。20ほどの椅子に、入居者たちが座っている。歩行機を押してきた入居者もいる。

 案内された食堂のテーブルは4人掛けで、白いクロスがかけられ、天井にはろうそくのシャンデリア。濃いブルーのカーペットが敷かれ、なかなか上品な設えだ。

 入居者の部屋を覗くと、このニューイングランド地区の普通の暮らしそのものの家具が並ぶ。窓際に薄い黄色のカーテン、壁に掛かる風景画、生成りのソファ、オーブンレンジを置いたキッチン。日常生活がきちんと行われている様子がよくわかる。

 96歳の1人暮らし男性、ハワード・キャノンさんが部屋の中を見せてくれた。キッチンの先に黒いソファのLDKと書斎兼寝室という相当にゆったりした間取りだ。ハーバード大学を卒業し、海外滞在も長かったという。日本の風景浮世絵のそばには、パソコンで書きかけの原稿の束が見える。

 一緒に暮らしていた妻が3年前に亡くなったが、同じ部屋を引き続き使っているという。慢性期の病を抱えているのかもしれないが、しっかりした足取りやきちんとした話しぶりから、とても元気そうに見える。

 部屋を出ると、廊下に「レジデント・ランドリー」の表示が見えた。入居者用の洗濯機を備えた部屋だ。

 こうした居住まいに、トランペットの演奏を聴きに来た入所者の姿などを重ね合わせると、シニアリビングとはいえ、健康にあまり不安のない入居者多いように見える。

 一般的には、健康な人が住むインデペンデントリビング(IL)と生活支援が必要な人のためのアシステッドリビング(AL)、それに重度者向けナーシングホーム(NH)を揃えているのがCCRCと言われる。このネビルプレイスのシニアリビングは、どうやらILとみていい。そこにAL段階の入居者も一緒にいるようだ。

 つまり、CCRCはかなり融通無碍、臨機応変にいろいろなタイプがあるということだろう。廊下の壁に日本語で「住めば都」「習うより慣れろ」「ネビルプレイスに夏が来た」と毛筆で書かれた書道作品が飾られていた。沖縄出身の日本人女性が書道のボランティアで通っているという。書道のほか、絵画や工芸品など作るアトリエはプロの仕事場のような広さと設備がある。