「首都圏高齢者は地方に引っ越し」を推進するが…

 有識者らで作る民間研究機関「日本創生会議」(座長・増田寛也元総務相)の分科会、「首都圏問題検討分科会」が6月4日、2025年までの医療・介護状況を発表し大きな話題を呼んでいる。報告書「首都圏高齢化危機回避戦略」では、一都三県(東京都、神奈川、千葉、埼玉県)の東京圏では75歳以上の高齢者が急増し、深刻な医療・介護サービス不足が起きるとして、高齢者の地方移住を提言したからだ。

 その移住先として、函館市、旭川市など北海道6市をはじめ、青森市、秋田市など東北5市、高松市、徳島市など四国7市、北九州市、別府市、熊本市など九州7市と、全国41地域を挙げた。

「首都圏高齢者は地方に引っ越しを」と主張するこの提言は、厚労省が掲げる「地域包括ケアシステム」に逆行するとともに、国民の自由な生き方、尊厳をも否定しかねない大きな問題をはらんでいる。

東京圏の介護サービス利用者は
2025年までの10年間に175万人増!

 同会議は、昨年5月に少子化で人口減少が続くため、2040年になると存続が危うい全国869の市区町村を「消滅可能性都市」と指摘し、当該自治体や住民にショックを与えた。消滅都市と指摘された自治体が、その後急きょ、少子化対策に力を入れ出すなど影響は大きい。その第2弾である。今回の提言は看過できないのは、先例があるためだ。

 まず提言内容を見て行こう。

 医療と介護サービスを利用し始めるのは75歳を迎えてからが多数。その75歳に団塊世代が到達する2025年までの10年間に、東京圏では75歳以上が397万人から572万人となる。175万人もの増加数は全国の3分の1を占める。高度成長期に団塊世代が一挙に地方から流入し、そのまま高齢化するためだ。

 これに伴い、介護サービスの利用者は東京圏で45%も増加し172万人になる。入院患者数から推定した医療需要も東京圏で22%増える。全国平均の増加率ははそれぞれ32%と14%に過ぎない。2番目の増加率の近畿圏の36%、16%をも大きく上回り、東京圏が突出している。

 東京23区内と千葉県で不足する介護ベッドを、従来は、余裕のある東京多摩地区と神奈川県、埼玉県で補ってきた。だが、25年になると、その3県を含めて大幅な不足に陥ってしまう。

 25年時点で必要な46万のベッド数に対して、15年の総ベッド数は33万しかなく、13万ベッドが足りない。10年間でこの不足分を供給するのは極めて難しい。そのため、介護施設に入所できない要介護高齢者があふれ出ることになる。「介護難民」となる懸念もある。

資料:東京圏の後期高齢者収容能力/出所:日本創生会議HP
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  介護施設が2040年時点で「特に整っていない」首都圏の地域として、提言で挙げているのは、都心部への通勤サラリーマン層が多い都市だ。東京都は荒川、足立、葛飾を除く20区と立川、三鷹市。神奈川県は横浜南部と厚木、藤沢の2市。千葉県は船橋、松戸、成田、市原の4市。埼玉県は川越、所沢の2市である。