エプソンがビジネスモデルを
転換できた4つの理由
最後に、エプソンが「逆ジレットモデル」と言えるタンク型プリンタのビジネスモデルを投入できた要因を整理してみよう。
第1に、知財侵害の多い新興国でのアウトサイダーに対して、訴訟で戦うのではなく、良質な同等品を発売することによって、結果的にはユーザーの評価を獲得したことである。新興国ではいったん裁判で勝っても、しばらくすると類似事件が発生することは日常的であり、アウトサイダーの商品を同質化してしまった同社の戦略は、大胆かつ有効であった。
第2に、従来のインクジェットプリンタとタンク型プリンタが同じ事業部で事業が行われていたことも、成功を支えた組織的要因であった。もし両者が別の事業部で担当されていたら、カニバリゼーションの議論が起き、大胆な意思決定がされなかった可能性もある。
第3に、エプソンは、レーザープリンタの構成比が低いという弱みを持っていたことが、タンク型プリンタの市場開拓を進めやすくした。競合大手は、製品構成がこの逆のため、国内で同質化できないでいる。これは『弱みを強みに変える』、まさに逆転の競争戦略の典型例と言える。
第4に、「紙に印刷する機械」という定義を越えて、プリンタを「情報を別の媒体に移植する手段」という考え方で、肩に力を入れずに事業領域を広げている。世間では3Dプリンタが注目を集めているが、2Dプリンタでもまだまだ用途開拓の余地がありそうだ。
最後に、「プリンタはジレットモデル」という教科書的な固定概念を自ら壊したのも、世界初のクオーツ腕時計やプリンタなどを商品化してきた諏訪精工舎、信州精器の時代から引き継がれた物づくり企業のDNAが、それを後押ししてきたと言えよう。
【募集】
著者勉強会開催決定!
【日時】2018年1月31日(水)開演19:00 終了予定20:30(受付開始:18:30)
【会場】東京 原宿 ダイヤモンド社本社ビル9F セミナールーム
東京都渋谷区神宮前6-12-17⇒地図はこちら
【参加条件】書籍『成功企業に潜む ビジネスモデルのルール』のご持参(電子版も可)
※会場でもご購入いただけます
【定員】最大50名予定
『成功企業に潜むビジネスモデルのルール』出版記念勉強会では、具体的なビジネスモデルを示しながら、それをさらに強くしていくための、外側からでは見えにくいポイントを探っていきます。
この催しは一方的な講演会ではなく、勉強会ですので、参加者の方には、積極的にご発言をいただきたいと考えています。当日、具体的なビジネスモデルのケースを紹介しますが、どうすればさらに強いビジネスモデルになるか、もっと儲かるビジネスモデルになるか、一緒に考えていきましょう。
詳細はこちら
----------------------------------------------------------------------------------------------------
本勉強会の受講にあたっては、書籍『成功企業に潜む ビジネスモデルのルール』をご持参(電子版も可)いただくか、会場にてご購入ください。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
ビジネスモデル戦略論が
たどり着いた最先端!
【新刊書籍のご紹介】
成功企業に潜む
ビジネスモデルのルール
見えないところに競争力の秘密がある
早稲田大学教授 山田英夫【著】
定価(本体1600円+税) ISBN 978-4-478-025741
◆外部から見ると同じようなビジネスモデルなのに、
なぜ儲かる会社と儲からない会社があるのでしょうか?
見えにくいところに、ビジネスモデルのツボがある――新刊『成功企業に潜むビジネスモデルのルール』の冒頭に書かれたこの一文に重要なヒントがあります。新しいビジネスモデルの企業が一時注目を集めても、あっという間に廃れてしまうことも珍しくありません。なぜ、そうなってしまうのか? それはそのビジネスモデルに、持続的優位性がなくなるからです。新しいビジネスモデルが失速する最大の要因は、社内のコスト構造、レガシー企業の報復、同じビジネスモデルの乱立です。面白いビジネスモデルでも、なかなか利益が出ない理由は、ここにあります。では、本当に強いビジネスモデルにはどんなルールがあるのでしょうか?
◆競争優位の真の要因を、数多くの事例から説き明かす
○エプソンは、なぜ成功パターンを自ら否定したのか?
○セブン銀行ATMの紙幣の補充は、なぜ月1回ですむのか?
○ソニー損保、成田空港、三菱電機、リクルート、リバイバルドラッグ、ソラコム、ランドスケイプ、カーブス……
【著者紹介】山田英夫(やまだ・ひでお) 早稲田大学ビジネススクール教授。「ユニークなビジネスモデル」を見つけ出す目、その語り口に大変高い評価がある。1955年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了後、(株)三菱総合研究所入社。大企業のコンサルティングに従事。89年早大に移籍。専門は競争戦略、ビジネスモデル。学術博士(早大)。ふくおかフィナンシャルグループ、サントリーホールディングス社外監査役。著書に『デファクト・スタンダードの競争戦略:第2版』(白桃書房)、『逆転の競争戦略:第4版』(生産性出版)、『異業種に学ぶビジネスモデル』『競争しない競争戦略』『ビジネス版 悪魔の辞典』(日本経済新聞出版社)他、多数。
【目次】
はじめに 見えにくいところに、ビジネスモデルのツボがある
序章 利益が出ないなら、ビジネスモデル自体を変えよう
1 エプソンは、なぜジレットモデルを捨てたのか/2 創造的破壊への挑戦
第1章 なぜ見えないビジネスモデルか
1 エプソンのケースが教えてくれること/2 ビジネスモデル探究の系譜/3 見えるところはすぐに同質化される
第2章 見えないビジネスモデルを読み解く
1 大企業のビジネスモデル/2 セブン銀行/3 ソニー損害保険/4 成田空港/5 三菱電機/6 リクルート/7 ベンチャー・中堅企業のビジネスモデル/8 リバイバルドラッグ/9 ソラコム/10 ランドスケイプ/11 カーブス/12 業界構造への挑戦中のビジネスモデル/13 ソニー不動産/14 ライフネット生命
第3章 真実は見えないビジネスモデルにある
1 見えないビジネスモデルの優位性
2 持続的なコスト構造
3 低コスト構造構築への新しい視点
4 持続的な競争構造
第4章 ビジネスモデル構築と運用のポイント
1 ビジネスモデル作りはOS作りと似ている
2 改善型アプローチにはなじまない
3 社外資源の活用――新しい酒は新しい革袋に
4 カニバリゼーションを克服する
5 ビジネスモデルのオープンとクローズ
6 ビジネスモデルは静止画ではなく動画
7 大手の「虎の尾」を踏まない
8 やせ我慢と現実とのトレードオフ
【ご購入はこちらから】
[Amazon.co.jp]
[紀伊國屋書店BookWeb]
[楽天ブックス]