エプソンがビジネスモデルを
転換できた4つの理由

 最後に、エプソンが「逆ジレットモデル」と言えるタンク型プリンタのビジネスモデルを投入できた要因を整理してみよう。

 第1に、知財侵害の多い新興国でのアウトサイダーに対して、訴訟で戦うのではなく、良質な同等品を発売することによって、結果的にはユーザーの評価を獲得したことである。新興国ではいったん裁判で勝っても、しばらくすると類似事件が発生することは日常的であり、アウトサイダーの商品を同質化してしまった同社の戦略は、大胆かつ有効であった。

 第2に、従来のインクジェットプリンタとタンク型プリンタが同じ事業部で事業が行われていたことも、成功を支えた組織的要因であった。もし両者が別の事業部で担当されていたら、カニバリゼーションの議論が起き、大胆な意思決定がされなかった可能性もある。

 第3に、エプソンは、レーザープリンタの構成比が低いという弱みを持っていたことが、タンク型プリンタの市場開拓を進めやすくした。競合大手は、製品構成がこの逆のため、国内で同質化できないでいる。これは『弱みを強みに変える』、まさに逆転の競争戦略の典型例と言える。

 第4に、「紙に印刷する機械」という定義を越えて、プリンタを「情報を別の媒体に移植する手段」という考え方で、肩に力を入れずに事業領域を広げている。世間では3Dプリンタが注目を集めているが、2Dプリンタでもまだまだ用途開拓の余地がありそうだ。

 最後に、「プリンタはジレットモデル」という教科書的な固定概念を自ら壊したのも、世界初のクオーツ腕時計やプリンタなどを商品化してきた諏訪精工舎、信州精器の時代から引き継がれた物づくり企業のDNAが、それを後押ししてきたと言えよう。