「福岡から世界へ。現在、70メガパスカル(=700気圧)での試験はクリアした。次は100メガパスカル(=1000気圧)で我が社の技術を証明してみせます!」。
TOKiエンジニアリング(福岡県福岡市博多区)の代表取締役、小柳悟氏は熱く語り始めた。
同社は、ステンレスパッキング専業の中小企業だ。パッキング(日本ではパッキンと称する場合が多い)とは、パイプなどを結合させる継ぎ手のなかに用いる製品。現在は工業用、建設用、水道用などでゴムなどの樹脂製品が主流だ。だが同社は「パッキンの革命」(同社ウェブサイトの表記)を宣言し、独自技術でステンレスパッキングを開発した。現在の主要な納入先は、ニチレイフーズなど食品プラント(製造工場)が多い。
「アメリカでは、食品テロへのフードセキュリティが大きな問題だ。飲料製品工場などでは、パート従業員が配管の定期整備の際にゴムパッキンを交換しており、テロ行為の可能性が残る。だがステンレスパッキンになれば、定期整備の周期を長くできるため、総合的な製品安全性が上がる。これまでゴム製パッキンは安価であり、さらに世界的にパッキンはゴム製が常識化していて、金属製パッキンの開発が進んでこなかった。そのため大手メーカーの本格的な製品はなく、われわれのような中小企業にビジネスの可能性がある」(小柳氏)。
こうした技術をさらに高度化させたのが、高圧水素ガスタンク用の同社製品だ。
しかし、なぜ水素用を開発したのか?
その理由は、福岡県が2004年に立ち上げた「福岡水素エネルギー戦略会議」にある。これは水素関連研究で世界をリードする九州大学が中核となり、文部科学省、経済産業省、民間企業を巻き込んだ、産学官連携の成長戦略構想である。各種研究施設の開設、世界会議の開催、日本初の燃料電池を活用した水素タウンの整備など、「水素=福岡」を前面に押し出す戦略なのである。