あまりに大雑把な検査方法だから
企業によって検査結果が異なる

「アンジェリーナ・ジョリーさんが受けた検査も『遺伝学的検査』に当たります。ジョリーさんは、遺伝性乳癌卵巣癌との相関性が極めて高い単一遺伝子BRCA1に変異を保有していて、将来的に9割近い確率で発がんすることを知らされました。わが国での大きな問題は、どれも一緒くたに“遺伝子検査”と呼び表すことで、このような『医療としての遺伝学的検査』が、民間のDTC“遺伝子検査”が混同されていることです」(高田氏)

 ジョリーさんの場合、「BRCA1」という単一の遺伝子の影響によって、将来の乳がんや卵巣がんの発症リスクが極めて高いことが判明したため、本人の強い希望で予防的切除術に踏み切った。しかし、DTC“遺伝子検査”が扱うのは、単一遺伝子に因らない通常のがんや高血圧・糖尿病・肥満など。これらの疾患は、膨大な数の遺伝子一つひとつによる、わずかずつの関与に加え、さまざまな生活習慣が複雑に絡み合う「多因子疾患」である。

「医療における遺伝学的検査では、単一の遺伝子異常が『決定論的』に挙動する疾患で、なおかつ治療・予防が可能な場合にのみ、医師が診断を下して治療に当たります。しかしDTC“遺伝子検査”では『コモンディジーズ』と呼ばれる、人が一生のうち1度はかかるようなありふれた疾患や体質、果ては子どもの才能までを、あたかもそれが科学的に裏付けがあるかのように消費者に伝えます」

「極端な例で言えば、ある企業の検査における『音楽の才能』の項目ですが、これは、医療の世界では『難聴』の際に解析する遺伝子の変異を調べています。難聴に関係する遺伝子は既知のものだけでも70ほどありますが、このうちのたった1個の遺伝子を取り上げ、しかもその中のたった1ヵ所の1個のDNAが正常であることを根拠に『耳が良く聞こえる』=『音楽の才能がある』と断ずるのです。難聴に関連する遺伝子の変化に対する判定には、『正常』か『異常』、すなわち普通の聞こえである『健聴』か『難聴』しかなく、『正常よりも優れた聴力』などといった判定は存在しません。われわれから見ればあまりにも荒唐無稽ですが、このようなことが大手を振ってまかり通っている現実があります」(高田氏)

 14年にネイチャージェネティックスで発表された論文によれば、成人の身長に関する遺伝情報のバリエーションは、現在約700個ほどが報告されているという。

 しかし、DTC遺伝学的検査を行っているある企業の「体質」の項目のうち、「身長」の根拠として“検査”しているゲノム変異はたったの1個である。700分の1の手がかりを取り上げ、あたかも確定的な事実のように喧伝するのはあまりにも早計であろうし、これこそが、検査する企業によって結果がまちまちである原因だ。企業によって、選ぶ情報も、根拠とする論文も違うのである。