英国が直面する解体の危機
離脱連鎖を誘発する国政選挙

 スコットランド自治政府は国民投票の結果を受けて、英国からの独立の是非を問う国民投票を再び実施して、EU残留を目指すと宣言しており、北アイルランドも独立して、アイルランドへの併合を目指す動きを見せている。EUの加盟各国の間では、今秋から来年以降にかけて国政選挙が目白押しで、いつどこで離脱連鎖に火がつくか、予断を許さない。

 今秋10月には、イタリアで憲法改正をめぐる国民投票があり、ハンガリーでは難民受け入れをめぐる国民投票がある。オーストリアではやり直し大統領選がある。年明け後の3月にはオランダの議会選、4~5月にはフランスの大統領選、8~10月頃にはドイツの連邦議会選など、国論を二分するような重要な選挙が控えている。EUからの離脱連鎖を誘発しないとも限らない舞台装置が待ち受けていることになる。

 英国とEUの離脱交渉が先延ばしされて、長期化すればするほど、その悪影響を受けるのは世界経済であり、末端の実体経済活動である。政治リスクが広げる不確実性が世界経済の先行き見通しを限りなく不透明にしているため、企業の投資も個人の消費も委縮して、減速経済への悪循環を招きかねない。英国を震源とした政治リスクの衝撃波は、EUを経由して全世界へ伝搬し、アジアから日本へ、その余波はすでに及んでいる。

 IMF(国際通貨基金)は、2019年までの英国経済について、EUとの離脱交渉が決裂した場合の成長率は残留した場合に比べて5.5%以上も縮小すると推定。仮に影響が限定的なシナリオでも同1.5%前後は縮小すると見込んでいる。英国が離脱した後のEUのGDP(域内総生産)は、2018年に0.2~0.5%引き下げられるとの見通しである。

 これに伴い、2017年にはユーロ圏の成長率は1.6%から1.4%へ、日本は同0.5%からマイナス0.1%へ、中国は同6.5%から6.2%へ、軒並み縮小する。そのなかで唯一伸長するのは米国で、同2.2%から2.5%へ改善する見通しだ。世界経済の牽引役は、どうやら米国にお願いすることになりそうである。

 ただ、その米国も8月から11月にかけては大統領選の渦中に巻き込まれていく。民主党のクリントン候補と共和党のトランプ候補の一騎打ちには、早くも英国のEU離脱が影を落としている。強烈なナショナリズムとポピュリズムを前面に出して憚らないトランプ候補は英国のEU離脱を支持、これが世界の新しい波であるかのように、同調を煽っている。仮に、トランプ候補が勝利する事態を迎えれば、国際社会の政治リスクは頂点に達して、国際秩序と世界経済をかつてない大混乱に陥れていくに違いない。