破綻した米投資銀行大手リーマン・ブラザーズのアジア、欧州部門を野村ホールディングスが買収したのは2008年9月。グローバル化に大きく舵を切った野村の顧客網と業務の幅は飛躍的に拡大した。だが、野村が追求する“対顧客ビジネス”の収益性は低く、真のグローバルな投資銀行への道のりは決して平坦ではない。(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)
その企業買収は、リーマンショック以降、長き眠りについていた欧州金融市場の目覚めを予感させる久びさの大型案件だった。
今年6月、スペイン3位の製薬会社であるグリフォリス社が、同業の米タレクリス・バイオセラピューティクス社を買収した。共に上場企業である。
資金調達の手段は、買収先の資産などを担保に取るLBO(レバレッジド・バイアウト)。LBOは少ない資金での買収が可能で、巨額のM&Aでは陰の“主役”とされてきた。調達総額は約45億ドル(約4200億円)、金融危機以降で最大規模のLBO案件となった。
このスペインと米国を結ぶ国際的ディールで競合する欧米金融機関を退け、買収側のアドバイザーとして差配したのが、野村ホールディングスである。2008年9月、破綻した米リーマン・ブラザーズのアジア、欧州部門を買収、2年後の果実であった。
リーマンの事業を承継し、世界中に広がる顧客網を獲得するとともに、LBOをはじめ市場で鍛え抜かれた投資銀行だけが展開できる提案業務も飛躍的に拡大した。
表面化している成約案件は一部にすぎない。じつは、野村は欧州とアジアにおける優良顧客240社あまりをリスト化し、じつに半数の約120社となんらかの業務契約をすでに獲得しているのだ。
そのなかには、米大手プライベート・エクイティ(未公開株)ファンド、KKRによる買収案件のアドバイザリー業務も含まれる。過去の実績はもちろん、世界的な販売網も持たなかったがゆえに、かつての野村であればまったく相手にされなかった企業との大型取引を獲得した一例だ。リーマン出身者たちが移籍2年を経て、その実力を存分に発揮し始めた。
日本人と非日本人の人事・報酬方針を統一
リーマンを承継した野村のマネジメントを、金融界は好奇の目で見守っていた。彼らは日本の金融機関と外資系の企業文化の異質さを熟知しているから、「リーマン組は嫌気が差して大量に辞めるのでは」との見方がもっぱらだった。
だが、アジアでは地域ヘッド級の幹部が何人か流出したものの、グローバルベースで見れば、2年間の離職率は業界平均の約20%をやや下回る水準を維持している。