慢性的な寝不足で死にそう
原因は定年後の夫

「ねぇお母さん、具合悪いの?」

 お盆休みで帰省中の娘が心配そうに尋ねてきた。

「大丈夫よ、この頃ちょっと寝不足なだけ」

 加寿子さん(仮名・56歳)は笑顔で答えたが、寝不足は既に慢性化しているし、昼から夕方にかけてやってくる眠気の強さは「ちょっと」どころではない。

 原因は、夫の孝博さん(仮名・65歳)だ。

 1月に定年退職して以来、早寝早起ぶりに拍車がかかっている。

「俺もようやく、のんびりできるな。しばらくはマイペースで身体を休めるよ。これまで酷使して来たからね」

 会社勤めだった頃は12時に就寝し、6時起床だった孝博さん。

 当初こそ、朝は8時過ぎまで寝ていたくせに、たちまち7時になり、6時になり、今は5時には起床する。夏になってからはさらに早起きになりつつある。

 独りで起き出すだけなら構わないが、寝室のカーテンを開け放って散歩に出かけ、戻るとラジオをつけ、台所でガタガタと音を立ててコーヒーを淹れ、お気に入りのロッキングチェアに腰かけて、ギコギコさせながら読書を始める。

「頼むからそのまま静かにしていて」、と思うと今度はボソボソ話しかけてくる。

 寂しいらしい。

「朝ごはん、作ろうか」

 作る気もないのに聞いてくるのは、遠回しの催促である。

 時間は6時半。朝食としては普通の時間だが、加寿子さんは眠い。

 孝博さんが起きた時点で目はもう覚めている。でも布団から出なかったのは、前夜寝つけたのが午前1時過ぎだったからだ。