中田堅司課長はすっかり困っていた。
部下の池面持夫くんは名前の通り、かなりのモテモテ男。女子社員の間では人気ナンバーワンだ。おかげで入社以来、恋の噂が途絶えることはなかった。そしてとうとう昨年、10歳も年下の後輩とめでたくゴールイン。「やれやれ、これでようやくあいつも大人しくなるな」と思ったとたん、またしても社内恋愛(不倫)の泥沼にはまった。しかも、相手は1人ではなく2人だ。
最初は「プライベートなことに介入してもしかたがないし」と素知らぬ顔をしていた中田氏。しかし先週、なんと愛人2人が社内で口喧嘩を始め、やがてつかみ合いの大立ち回りを演じる、という大変な騒ぎが起きた。1人はそのまま会社を飛び出し、以来、欠勤を続けている。
「池面め、女性を泣かせるなんて困った奴だな。しかし、ちょっと羨ましいぞ…」
中田氏にしてみれば複雑な気分だ。結婚して10年、妻と可愛い娘たちのためにひたすら働いてきた自分。かたや次々に女性に手を出し、いっこうに落ち着きのない池面くん。同じ男といえ、この違いは何なのだろう。池面は責任感というもののかけらも持ち合わせていないのだろうか?
「愛と絆」を生む
ホルモンとは?
「浮気の虫を封じる薬」があれば、世の妻、夫はどれほど助かることだろう。もちろん、今のところそんなしろものはどこにも売っていないが、ひょっとすると将来、こうした薬がお目見えしないとも限らない。
さて、その薬のもとになるモノとは――。
「それは、パゾプレッシンとオキシトシンです。バゾプレッシンは、抗利尿作用や血圧上昇作用のあるホルモン。オキシトシンは出産の時に子宮を収縮させ、授乳期には乳汁を出すホルモンです。バゾプレッシンとよく似た物質で、脳の中では共通の受容体(ホルモンをキャッチする分子)を介している可能性があるといわれています」
こう説明するのは、日本医科大学大学院医学研究科システム生理学分野の佐久間康夫教授だ。この事実は、ハタネズミを用いた実験結果でもあきらかである。
ハタネズミの一種、プレーリーハタネズミのオスは一夫一妻を貫いているうえ、子育てにも参加する感心なネズミだ。反対に、メドーハタネズミのオスはあちこちのメスをナンパして歩く。もちろん、子どものことなど見向きもしない。