職場環境について述べた記事は多くないが。2016年8月1日の毎日新聞記事「事件発生から1週間 弱者どう守る」などから記述を拾い出すと、

・2012年12月 
 U容疑者は障害者施設に就職活動を行い、「学生時代のボランティアや教育実習を通じて福祉に関心」というアピールを行った。結果、非常勤職員として採用された。

・2013年4月
 U容疑者、障害者施設の常勤職員に。夜勤もあるにもかかわらず、月給は月18~19万円(アルバイトの場合、夜勤の時給は905円)。

 先輩職員が入所者を手荒く扱い、時に暴力的であることに対して憤慨していた(東スポWeb)。

・2013年5月
 U容疑者の勤務態度が悪化し、遅刻・入所者の身体にペンでいたずら書きをするなどの問題が見られた。注意されると謝ったが、問題の行動は修正されなかった。

・2014年秋 
 元職員の一人が、現役職員から「U容疑者が入所者に暴力をふるっている」という相談を受けた。

 報道から読み取れる情報を列挙して推測すると、U容疑者自身については、

「就職した障害者施設は、仕事のハードさに比べて収入が低すぎ、時に入所者に対して暴力的な扱いも行われている職場だった。そして、U容疑者自身はその暴力的な扱いに馴染み、適応しすぎてしまった。結果として『障害者を抹殺』といった考え方を表明するようになり、実行に移してしまった」

 という変化の可能性が浮かび上がってくる。また職場であった障害者施設については、

「問題のある介護職員がおり、入所している障害者が虐待されたり不愉快な思いをさせられたりしていても、なかなか解雇しづらいほどの人手不足に陥っている。職員の育成・教育にも成功していない」

 という状況が常態化していた可能性が考えられる。

 断じて、U容疑者の凶行を擁護するつもりはない。U容疑者自身の抱えていた問題は、「貧」と「困」だけでも小さくないが、「自己責任」と言える部分も多い。しかし、犯行に時間・空間の両面からつながっている背景は、日本の介護・福祉業界に共通する慢性的・構造的問題群だ。この問題群は、「犯行とは全く無関係」と言えるだろうか? もちろん、介護の仕事に就いている人々の大多数は、虐待を実行したり、このような事件を起こしたり「しない」。虐待を目撃したとき、内部告発する人々もいる。良心的に仕事に向き合う人々が多数いることは、それだけで救いである。それでも、介護・福祉業界が抱える根本的な問題に取り組まなければ、今後も同様の問題が発生し、事実上、障害者が少しずつ「抹殺」されてしまう近未来が待っているのではないだろうか?

 気になることがらは、他にも数多くある。入所者の男女比と被害者の男女比の差、入所者・家族・施設それぞれの「貧」「困」など、時間をかけて調べ、検討する必要のありそうな問題点も数多い。

 ともあれ、なるべく本質や根本から目をそらさないように、今後の成り行きに注目していきたい。

 次回は、「資産申告書」の問題を取り上げる予定である。