男女間で多少の喧嘩をすることがあっても、恋人が凶器を持ち出し、それを使って相手を傷つけるのは完全に度が過ぎており、もはや末期症状だと言わざるを得ません。察するに、誠さんと彼女の関係は突然、ここまで悪化したわけではなく、途中経過を経ているはず。そこで私は誠さんに尋ねました。

「彼女がこうなったのは、いつ頃からですか?」

 誠さんは少しだけ冷静さを取り戻したのか、過去に記憶を辿るように答えてくれました。

「彼女はこんなにおかしくなったのは、僕と一緒に暮らし始めてからです。もちろん、以前から彼女が突然、キレることはあったにはあったんです。でも、僕は彼女と一緒にいるだけで十分、幸せだと感じていたので、そのときはそれほど気にしませんでした」

 誠さんが彼女と付き合い始めてから半年。彼女のアパートがちょうど更新時期だったので、誠さんは同棲を始めるのに、ちょうどいい機会だと思ったそうです。アパートを引き払って自分のところに来て欲しい。誠さんが彼女を誘ったのが同棲のきっかけでした。

 誠さんはすでに、彼女との結婚を真剣に考えていました。だから、同棲は結婚にむけてちょうどいい準備期間だと、当時は前向きに考えていたそう。しかし、この頃からです。誠さんが彼女の言動を見るにつけ「ちょっと度が過ぎるのではないか?」と首をかしげるようになったのは。

彼女のヒステリーに耐えた日々
我慢は裏目に

 例えば、ある日のこと。誠さんが仕事を終え、クタクタになって家に帰ると、彼女がムスッとした顔で出迎えたそうです。そして「待っていました」とばかり、彼女は誠さんに対して、いろいろ不平不満を吐き出したのです。誠さんが彼女の話を、嫌な顔せず、聞いているうちは良いのですが、少しでもうんざりしたような態度をとろうものなら大変。

「こんな田舎はもうたくさん。田園調布のような高級住宅街に住みたい!」
「いつ別れてもいいように、派遣から正規にならないと!」
「あんたじゃ、友達に紹介できないわ!」

 そんなふうに暴言をまき散らすのです。暴言の理由は誠さんが彼女の話に合槌を打つかどうか、相手の顔を見て話すかどうか、そしてちゃんと考えて返事をするかどうか……ごくごく些細なことです。しかし、彼女は少しでも気に入らないことがあると「ヒステリックな女」に豹変し、理不尽な言葉を次々と並べ立てるのです。いずれも直前の話とは全く関係がないので、誠さんは弱り果ててしまったようです。

「僕は彼女に対して、できる限り、優しく接してきたつもりです。何も僕ばかりが悪いわけじゃない!彼女にこんなふうに罵られる理由なんてないんです!!」と誠さんはつい声を荒らげます。誠さんはお世辞にも稼ぎが良いとは言えないようですが、それでも今まで生活に困ったことはないそう。さらに自宅のアパートは埼玉の郡部ですが、職場から徒歩15分と便利な場所でした。