――解答です

 今回の落とし穴は、生存バイアスの罠です。これは、脱落あるいは淘汰されていったサンプルが存在することを忘れてしまい、一部の「成功者」のサンプルのみに着目して間違った判断をしてしまうというものです。

 今回のケースでは、プロ野球の選手会に所属する支配下選手(およそ750人)のうち、10%程度が1億円以上のプレーヤーであること、あるいは平均年俸が3800万円であることを理由に、息子をプロ野球選手にでもしようと考えていますが、典型的な生存バイアスの罠に引っ掛かっています。

 現在支配下登録されている選手は、基本的に、厳しい生存競争を勝ち抜いた(あるいは勝ち抜くだろうと評価されている)、いわば勝者ばかりです。若手でさえ、全く見込みなしと判断されれば、1、2年で解雇されるのがこの世界です。1、2年とは言わないまでも、数年たっても芽が出ず、無名のまま球界を去る若者の方が多いことは容易に想像がつくでしょう。

 つまり、支配下登録にとどまれるという段階でかなりのエリートなのです。そのエリートの数字のみを見て、「平均的なプロ野球選手像」を描いてしまうのは、実態以上に物事を過大評価することにつながるのです。

 この生存バイアスは、さまざまなシーンで現れます。たとえば株式やFXを売り込む際の、顧客の声やデータなどが典型的です。証券会社やFX会社は、マーケティングのツールとして、たとえば3年以上利用している顧客の平均リターンの数字を示すかもしれません。その数字はおそらく、初心者には魅力的な数字と映るでしょう。

 しかし、よく考えれば、3年以上投資をしているという段階で、そこに強いスクリーニングがかかっていることが分かります。株式投資はプラスサムになりえますが、FXなどは基本的にゼロサム(手数料を引けばマイナスサム)の世界ですから、本来、期待リターンはマイナスのはずです。しかし、早々に損をだしてFXを止めてしまった人のデータが抜け落ちてしまうため、長期顧客のデータだけ見るとプラスになってしまうことがあるのです。

 企業分析やケーススタディなどを行う際にもこのバイアスには注意が必要です。よく、しっかり分析を行うために、成功事例だけではなく失敗事例も見ることで、何が成功と失敗を分けた主要因なのかを見極めようとすることがあります。この発想自体は悪くないのですが、現存している企業だけを対象とすると、やはり生存バイアスの罠に落ちることになります。