2010年、日本人が新たにノーベル化学賞をダブル受賞した。これにより、日本が輩出した同賞の受賞者は18人に達した。実は、そのうち物理学賞、化学賞、医学生理学賞といった「理系」に属する部門に15人が集中しており、改めて日本の科学技術が世界に誇るべき水準にあることがわかった。そんな世相を反映してか、ここにきて、日本の子どもの「理科離れ」に警鐘を鳴らす識者が増えている。調べてみると、「理科離れ」の現状は思ったよりも深刻だ。(取材・文/友清 哲、協力/プレスラボ)

ノーベル化学賞のダブル受賞で
「事業仕分け反対派」が活気付く理由

「世界一になる理由は何があるんですか? 2位では駄目なんでしょうか?」

 すっかり有名になった、蓮舫・現行政刷新担当大臣のこのセリフ。昨年、民主党政権によって行なわれた「事業仕分け」において、次世代スーパーコンピューターの開発予算に事実上の「ノー」を突きつけた言葉として、広く国民に知れ渡ることとなった。

 正直に言えば、筆者は比較的この物言いに共感できた口である。というのも、財政難に喘ぐ日本の懐事情を鑑みれば、科学技術で高みを目指すよりも、増え続ける「ムダ遣い」への対策を講じるほうが、優先だろうと感じるからだ。

 家計に例えれば、苦しい家庭が食事を1日1食に抑えて子どもを塾に出すようなら、それは子育てとして「本末転倒」と言わざるを得ないはずである。

 しかし現金なもので、今年新たに2人のノーベル賞学者が日本から誕生したことを機に、少々世の中の考えが変わってきたフシがある。

 2010年のノーベル化学賞は、根岸英一氏(米パデュー大学特別教授)、鈴木章氏(北海道大学名誉教授)がダブル受賞した。過去を振り返れば、全18人のノーベル賞受賞者のうち、物理学賞、化学賞、医学生理学賞といった「理系」に属する部門に15人が集中している(残りは文学賞が2人、平和賞が1人)。日本人の技術や実績が世界的にこれほど評価されることには、まさに溜飲の下がる想いがある。

 そのため、「民主党が計画している今後の事業仕分けで、理科系の研究予算が削られることにより、次世代のノーベル賞候補者の芽を摘んでしまいかねない」という懸念が、識者から噴出しているのだ。