もちろん、利害が一致する商売上でのつながりではありますが、それでも「この人がいれば、大変なことも乗り越えられそう」という信頼ができる人に仲介してもらえるのは、何にも代えがたい安心感となりました。
さらにこの不動産屋さんは、わたしたちが1年なり2年なり、時間をかけて農家資格を取得するにあたり「手ほどき、手助けしてくれる人」を紹介してくれたのです。
同じ南房総に住む農家さんで、不動産屋さん自身の高校時代のご友人とのこと。なんとプライベートな人脈でしょう。
都会の変わり者が膨大な広さの敷地を取得するんで頑張ってるから、ひと肌ぬいでやってと話をつけてくれたらしく、農地の管理方法(草刈りや耕うんなど)を教えてくれたり、手伝ってくれたりと、農家資格の取得までサポートをしてくださるというありがたすぎる話です。
そう、言うまでもなくわたしたちは本当に本当に、草刈りひとつできない赤ん坊のような田舎暮らし初心者でした。あまりに初心者すぎて、何ができないのかすら把握していない状態。
そんなので本当にいいのかと焦る気持ちをすっとさえぎり、「最初は誰でも初心者。できないのは当たり前」と農家の方独特の日焼け顔で笑うのは、実家が農家で市役所に勤務する西田一郎さんという方でした。
ああ頼りになるなあ、味方ができたような安堵感を胸に、「よろしくお願いいたします」とわたしたちは頭を下げました。そのときは、まずはこの農業の先生に指導していただき、早く卒業できるように頑張ろう、などと思っていました。
その彼は、のちにわたしの運営するNPO法人南房総リパブリックという団体の創設メンバーとなり、現在も共に里山保全の活動をしています。契約関係などという他人行儀な線はとうに超え、まるで南房総の親戚。
ほんのひととき頼るはずの彼が、わたしたちの人生になくてはならない存在となったのです。このときのご縁が一生のご縁となるとは、当時は知る由もありませんでしたが。
(第12回に続く)