なるほど……わたしには、この売り主さんの「売りたいけれど売りたくない」という複雑な気持ちが痛いほど伝わってきました。単純に売り渋っているというだけではなさそうです。
自分が見そめて心から納得した相手以外には、お金が折り合っても渡したくないのかもしれない。
「草刈りの大変さは、十分覚悟しています。当面、作業のサポートや指導をしてくださる方の目途も立てました。不慣れながらも、頑張らせていただきます」
夫は、まっすぐ売主さんの目を見て決意を口にしました。
「そうですねー、徐々に覚えれば、誰しもできることなんですがね。体力さえあれば」と、売り主さんはちょっと苦笑しながら答えます。
「ちなみに、草刈りが大変なのは、夏ですか?」わたしは恐る恐る口を挟みました。
「いやー、まあー、草は3月くらいから10月くらいまで生えるなあ。夏は特にねえ、伸びるんですよ。敷地全部を刈り切るには、2週間くらいかかりますし、終わった途端に前刈ったところは生えてますよ」
……実際、草刈りひとつやったことのないわたしたち。正直、このすごいらしい状況を伺ったところでピンとこなくて、本当にこの広大な土地を将来にわたって維持管理していけるのだろうかと、モヤッとした不安がよぎるばかりでした。
ただ、わたしには、高校時代にソフトボール部で培ったムダともいえるほどの体力と、妙なド根性がありました。
そんなものを根拠に、どんなに草刈りが大変だと言われても、たぶんやってのけられるだろうという自信さえありました(今となっては、草刈りはそんな甘いもんじゃない!と当時の自分に知らしめてやりたいと思ってしまいますが)。
「多少の苦労は楽しく乗り越えようという覚悟はあります。今は知識も経験もないですけど、やる気と体力だけはありますから!」と、わたしはついに啖呵を切り、ない胸を張りました。
あのときのわたしたちはおそらく、婚約時に互いの両親に会ったときよりも真剣な顔つきだったと思います。