フィールド・メソッドの3つのモジュール

 新しい必修科目は「フィールド(FIELD:Field Immersion Experiences in Leadership Development)」と呼ばれる。doingとbeingに重きを置いた「フィールド基礎(感情知性)」、「グローバル知性」、「統合知性」の計3つのモジュールから構成される1年間のコースだ。これまで通り、knowingの面は、戦略、マーケティング、ファイナンス、会計等の必修科目をケースで学ぶことでカバーされている。

 フィールド・メソッドの3つのモジュールについて、もう少し解説しておく。

 最初の「フィールド基礎」モジュールは、ワークショップ形式で、考え方、行動の仕方、自分自身の見方を鍛える訓練を行い、お互いのフィードバックや自省を通じて感情的知性(emotional intelligence, 心のIQ)を発達させ自身のリーダーシップのスタイルへの理解を深めることを目的としている。

 2つ目は「グローバル知性」(global intelligence)モジュールである。一学年930名全員が世界10ヵ国以上の新興国に行き、1チーム6名で新興国のある一企業の商品・サービス開発のコンサルティングを行う。あえて新興国にしぼっているのは、いつも慣れている社会とはまるで違う場所に身を置くことで、普段は使っていない感性や感覚を研ぎすまし、自己の価値観をより明確にするためだ。自分がこれまで訪問したり住んだりしたことがある国も選べない。

 3つ目は「統合知性」(integrative intelligence)モジュールだ。 ここでは再びチームに分かれ、1チーム5000ドルの軍資金をもとに、1ドルでもよいから実際の収入を上げるビジネスを興すのが課題である。各セクションから選ばれたチームは本物の投資家の前で発表し、実際に投資がついて事業化することもある。一方、即席のチームでたった3ヵ月という短期間でビジネスを立ち上げるという難題を前に、チーム内の分裂やケンカ、事業プランの破綻、実行の失敗……と、ほとんどのチームが事業化には至らないのが現実だ。学校としてはこのモジュールでは失敗をむしろ推奨しており、ほとんど挫折のない人生を歩んできたHBSの学生に失敗を経験させ、そこから学んでほしいという思いがある。

すでに内在していた“体験型”プログラムも正規の授業に

 このうち、第2モジュール「グローバル知性」で新興国で学ぶ授業を実施していると述べたが、このフィールドが始まる前から、HBSにはすでに体験型授業のプログラムが存在した。それがImmersion Experience Program(IXP:どっぷり浸かって経験して学ぶプログラム)である。

 始まりは2005年8月にアメリカのニューオーリンズを襲い180名以上の命を奪ったハリケーン・カトリーナだった。HBSの学生たちから被災地に行って復興を手伝いたいという切実な声があがり、安全確保の綿からの学校としてある程度サポートをして行かせようということになり、スタッフを付けて被災地に送り出した。このカトリーナ被災地の訪問がきっかけとなり、テーマ・行き先の設定は主に学生が主導して、それを学校がロジスティクスの綿からサポートするプログラムが始まった。イスラエルやインド、2010年の大地震後のハイチなど、様々なプログラムが開催された。このプログラムがIXPと名付けられ、訪問先で実際に何かを体験することで学ぶという形式が確立していった。

 必修科目フィールドを設計する際には、IXPの経験や知見が参考になったと聞いている。体を動かして学ぶ(doing)、見知らぬ国や被災地などの普段では想像がつかない状況にみずからの身を置くことで自分を知る(being)教育の原型が、すでに学内あったのである。もしくはIXPを通じて、doingやbeingの学びの大切さをHBSはある程度分かっていたからこそ迅速なフィールドの導入が可能だったといえるのかもしれない。

 フィールドの開始とともに、それまで任意のプログラムであったIXPも2012年から2年生の選択科目として単位化され、正規の授業の仲間入りをした。そのときから数ヵ国で開催されてきているうち、毎年連続して行われているのが日本の東北を舞台としたジャパンIXPなのである。

 フィールド・メソッド誕生の背景説明はここまでとして、次回はジャパンIXPの内容について、詳しくお伝えしていく。