組織で働く人たちは、いつの間にか、本当は存在しないはずの「見えない枠」を、自ら作り出してしまっているのではないだろうか。跳べなくなるノミの実験は、まさにそのような組織の姿とリンクする。
大学卒業後、青年海外協力隊からマッキンゼーを経て起業した小沼大地氏が、日本社会の流れや価値観の変化の中で、ビジネスパーソンがとるべき選択について語る。(撮影/宇佐見利明)

日本の組織と働く人たちのような、跳べなくなるノミの実験社会や価値観が変化する中、組織で働く人たちが今とるべき選択とは?

日本の組織とそこで働く人たちのような
ノミの実験

日本の組織と働く人たちのような、跳べなくなるノミの実験小沼大地(こぬま・だいち)
NPO法人クロスフィールズ共同創業者・代表理事。1982年生まれ、神奈川県出身。一橋大学社会学部を卒業後、青年海外協力隊として中東シリアで活動。帰国後に一橋大学大学院社会学研究科を修了、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて勤務。2011年、ビジネスパーソンが新興国のNPOで社会課題解決にあたる「留職」を展開するクロスフィールズを創業。2011年に世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shaperに選出。2014年、日経ソーシャルイニシアチブ大賞・新人賞を受賞。国際協力NGOセンター(JANIC)の常任理事、新公益連盟(社会課題の解決に取り組むNPOと企業のネットワーク)の理事も務める。
NPO法人クロスフィールズ http://crossfields.jp/

 ある衝撃的な実験の映像がある。
 昆虫のノミは体長2ミリ程度なのだが、実は30センチも跳ぶことができるという。
 高さ20センチほどの瓶にノミを大量に入れると、ノミたちは当然のように、その瓶からはみ出すジャンプを繰り返す。だが、瓶にフタをしてしばらく置いておくと、フタの存在があることにより、ノミたちは次第にフタのところまでしかジャンプをしなくなる。そして驚くべきことに、フタを外してみても、どのノミもフタの高さまでしかジャンプをしなくなり、瓶をはみ出してジャンプするノミはいなくなってしまうのだそうだ。
 さらに恐ろしいのは、瓶の筒の部分を外してみると、ノミの集団はまるでそこに瓶があるかのように、瓶の形に沿うような高さでジャンプし続けるのだ。もうそこに瓶やフタは存在していないのに、「見えない枠」があるという思い込みによって、ノミたちは本来の力を失ってしまうのだ。

 この瓶詰めのノミの実験は、僕にとっては、日本の組織とそこで働く人たちと重なって見える。

 企業には、もともと多様な能力を持った人が集まってくる。そこで働く人は、多くの可能性を秘めている。しかし、一度フタをされてしまうと、企業の器以上のことができる人材はいなくなる。先輩や上司たちがリスクや失敗を恐れ、新しいことにチャレンジしなければ、若い人たちもそれでいいと思ってしまう。組織で働く人たちは、本当は存在しないはずの「見えない枠」を、自ら作り出してしまっているのではないだろうか。

 実はこの実験には続きがある。
 あることをすることで、この状況を劇的に変えることができるのだ。