かつて、暑い夏は歌舞伎のシーズンオフだった。とはいえ、だからこそ観客を楽しませる工夫や仕掛けが考え出された

暑い夏ゆえに考え出された
仕掛けもの「外連(ケレン)」

成毛 あまり言いたくありませんが、暑いですね。

おくだ まったくそうですね。 

なるけ・まこと
1955年北海道生まれ。中央大学商学部卒。マイクロソフト日本法人社長を経て、投資コンサルティング会社インスパイア取締役ファウンダー。書評サイト「HONZ」代表。『本棚にもルールがある』(ダイヤモンド社)『ビジネスマンへの歌舞伎案内』(NHK出版)『教養は「事典」で磨け』(光文社)など著書多数。
Photo by Kazutoshi Sumitomo

 成毛 とはいえ、夏ならではの怪談ものがかかることも多く、楽しみな季節でもあります。本水(ほんみず)を使ったものもありますね。本水とはつまり、水。ただし、使う量が尋常ではありません。イメージとしては、舞台の上にプールを設置するようなものですよね。役者さんはそれにどっぷり浸かりますし、水はさばざば溢れます。おそらくトン単位で水を使っているでしょう。オペラでは決して見られない光景です。

おくだ 歌舞伎はいろいろとやりやすいんですね。本水を使うように、仕掛けものが多いことをケレンといいます。漢字で書くと外連です。今、「外連みがない」という言葉は褒め言葉になっていますが、外連とはトリッキーなことをやって人目を引くという意味で、歌舞伎では長い間、格下として扱われてきました。この外連と夏休みに、実は関係があるのです。

成毛 外連には空中にワイヤーを張る宙乗り(ちゅうのり)や衣装の早替わり(はやがわり)も含まれますが、でも、なぜ格下なんですか。

おくだ前回も言ったように歌舞伎のシーズンオフは夏。とはいえ、江戸時代の芝居小屋の小屋主は、夏の間、小屋を遊ばせておくのはもったいないと思い、普段なら脇役の若手の役者を主役に据えてでも、公演をしたいと考えます。ただ、暑いのは確かですから、見る方も根を詰めて重い芝居を見たくはないし、芸が未熟な若手が重い芝居をするのも無理があります。若い役者にはアクロバティックには身体を張ってもらい、それにふさわしい演出を取り入れようと考え出されたのが、しかけを使った目に楽しい、まさに外連み溢れる芝居なんです。今の歌舞伎座が8月は3部制をとり、エンタメ性の強い演目を揃えているのは、江戸時代の夏芝居を現代に受け継いでいるからと言えます。