元マイクロソフト日本法人社長で現在は書評サイト「HONZ」の代表を務める成毛眞さんと、「歌舞伎ソムリエ」としてイヤホンガイドで定評のあるおくだ健太郎さんが、ビジネスマンとして知っておきたい歌舞伎の知識と、日本文化との深いつながり、そして年に一度は歌舞伎を観ることで得られるメリットなどを語り合う本連載。3回目は歌舞伎独特の観劇スタイルについて採り上げます。
歌舞伎はあくまでショービジネス
成毛 なんとなく知っているもののことを、明快に説明するのは案外難しいことです。歌舞伎もそうで、多くの日本人は歌舞伎をなんとなく知っているけれど、たとえば外国人に「歌舞伎とは何か」と聞かれたら、「えっ」と思ってしまい、ついつい成り立ちから延々と語ろうとして、自分でも何を言っているかわからなくなって、結局、うまく伝わらないということになりかねません。おくださんなら、外国人にはどんな風に歌舞伎を説明しますか。
1955年北海道生まれ。中央大学商学部卒。マイクロソフト日本法人社長を経て、投資コンサルティング会社インスパイア取締役ファウンダー。書評サイト「HONZ」代表。『本棚にもルールがある』(ダイヤモンド社)『ビジネスマンへの歌舞伎案内』(NHK出版)『教養は「事典」で磨け』(光文社)など著書多数。
Photo by Kazutoshi Sumitomo
おくだ 「ショービジネスだよ」ですね。江戸ピリオドから、ブロードウェーのミュージカルとおなじ商業演劇として、絶やさず続けられているものだと説明します。
成毛 ミュージアムに展示されている美術品とは異なるということですね。
おくだ 歌舞伎は常に現役をはってきたビジネスですから、歌舞伎を見に行くのは、ショービジネスの現場に行くことです。歌舞伎は、見るものである以前に、出かけていく空間なんです。
成毛 決して、物語だけを見に行く場所ではない。観劇することを楽しむ場だと。
おくだ その通りです。外国人といえば、お連れしたときには必ず「あの客席から聞こえるかけ声はなんだ」と聞かれます。
成毛 大向こうですね。上演中に、客席から「中村屋!」「萬屋!」「成駒屋!」など、役者にかかるかけ声と、それを発する人のことを大向こうといいます。よく、歌舞伎とオペラは比較されますが、オペラに大向こうはありません。
おくだ ブラボー!と叫ぶことはあるけれど、歌舞伎のように芝居の真っ最中に客席にいる人が突然かけ声をかけることはありません。ブラボー!には、誰が見ても明らかなタイミングがありますが、大向こうにはそれはありません。ただ、見慣れている人にはわかる絶妙なタイミングが存在します。
成毛 確かにそうですね。