英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今週も原発についてです。市民主導に見せかけて実は企業や利益団体主導だったニセモノの草の根運動を、英語では「人工芝」と呼ぶことなどについて。そして不完全な情報は出せないという、実に霞ヶ関らしい優秀さゆえに、被曝被害が拡大したかもしれないことについて。(gooニュース 加藤祐子)

人工芝はこすれると痛い

 米国債が格下げされ、世界の市場は乱高下し、ロンドンは燃やされ、アフリカでは飢饉(ききん)が拡大し、シリアでは民主化運動の弾圧が激化し、日本は暑さにうだり、被災地の動物たちは飢え、福島県では約4万9000人が県外避難を余儀なくされ、にもかかわらず北海道では泊原発が運転再開しようかという今日この頃、いかがお過ごしですか。

 そういう状況で英語メディアを眺めていて目にとまったのが、日本の原発業界による「人工芝」運動を取り上げた米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』の記事でした。

 九州電力と佐賀県知事の「やらせメール」問題、そして経済産業省の原子力安全・保安院が各地の原発関連シンポジウムで電力会社に「やらせ質問」を要請していた問題についてです。記事はこれを、「草の根」ならぬ「人工芝(Astroturf)」運動と呼んでいます。

「Astroturf campaign」というのは真新しい造語ではなく、英語版のウィキペディアによると、1985年ごろから使われている表現とのこと。文字通り、ニセの草の根運動のことです。企業や業界、政党などが、自然発生的な市民運動にみせかけて仕掛ける運動を意味します。自然の芝と違って人工芝は滑ってこすれると痛いですが、別にそこまでひっかけたわけでもなさそうです。

 『ウォール・ストリート・ジャーナル』の「日本の原発業界、スキャンダルで汚れる」というこの記事ではチェスター・ドーソン記者が、福島第一原発の事故は日本における原子力発電にとって大きな打撃だったが、事故後の業界の下手な画策のせいで国民の信頼は大きく失墜したと書いています。「集会に原発推進派を大量動員したり、やらせ質問をさせたり、メール作戦を展開させたりと、こうした一連の『人工芝作戦』は、今やひどい逆効果をもたらしてしまった。国民は激怒し、定期検査で休止中の原子炉を再稼働するのが難しくなってしまった」と。さらにその「人工芝運動」に原子力保安院が主体的に関わっていたことが、保安院の分離解体につながったのだとも。

 原発の安全規制などを担う新組織「原子力安全庁」(仮称)を環境省の外局として設置する基本方針決定については、たとえばロイター通信が12日の関係閣僚会合での決定を受けて、環境省は経産省ほど「力はないが、(原子力保安院ほどは)業界と癒着していない」と説明。ロイター通信はさらにこの件について、環境政策やエネルギー問題の専門サイト『Ecopolitology』の記事を転載していました。

 同サイトのティモシー・ハースト編集長は、「アメリカで大統領を目指すミシェル・バックマンやニュート・ギングリッチを含む大物保守政治家たちが環境保全庁(EPA)の解体を求めている時を同じくして、日本政府は正反対の方向へ向けて動いている。環境省の権限を拡大し、原子力規制もその管轄下に入れようとしているのだ。この決定は、菅直人首相にとって重大な勝利だと言われている」と評価。そしてやはり、日本の原発産業と経産省による「人工芝運動」を批判しています。

 英紙『ガーディアン』は16日付の社説を「ポスト福島 原発の汚い手口」と題して、「原子力安全庁」の設置について、「原発導入から半世紀たってようやく、日本は推進と規制を切り分けたが、国民の信頼を回復するにはもはや遅すぎるかもしれない」と書いています。

世界でも極端な日本の原発産業

「政府が公表しない地元の放射線量を調べるため市民が自前の線量計を使わなくてはならない国において、福島の事故後に生命や健康に関するリスク情報があまりに場当たり的に小出しにされた国において、そしてあれほどの大事故が起きても臆面もなく汚い手口を使って国民の議論を動かそうとしているらしい原発業界を持つ国において、単に政府の役所を並べ替えただけではとても十分だとは言えないだろう」とガーディアン紙は社説で痛罵しています。

 さらに「日本の企業文化は極端から極端に触れる。目先の利益をやみくもに追求する無軌道さが片方にあるかと思えば、もう一方では何かまずいことが起きると懺悔し涙を流し心からの(ように見える)謝罪を繰り返す」ものなので、日本の原発産業のやらせと世論懐柔の手口は極端なケースかもしれないが、「原発産業を抱える全ての国が同じ問題を抱えている」と。

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