この時期になると、学生はセンター試験への準備のため、ひたすら勉強していることだと思います。人生をかける1回きりのチャンスをものにするためには、「集中力」は最強の武器です。今回は、大事な本番の直前に行う集中状態に入りやすい仕組みを紹介します。
本連載では、脳の仕組みを活用した世界水準の集中力を磨く技術が網羅されている新刊『世界記憶力グランドマスターが教える 脳にまかせる超集中術』から集中術のエッセンスを紹介していきます。

大事な本番の前に行っているたった2つの準備

 フローという言葉を聞いたことがあるでしょうか。スポーツの世界ではよく耳にしますが、簡単にいうと、「時間が経つのを忘れるほど、やるべきことに没頭している最高の集中状態」を指します。

 フロー状態に入ると、答えを見つけ出すとき、無意識のうちに最適なものを、しかも瞬間的に選ぶことが可能になります。

 この状態のとき、スポーツに限らず、仕事や勉強、研究、アートの世界など、さまざまな分野で最高のパフォーマンスを発揮することができます。

 私もこの状態を経験したことがあります。初めて出場した世界記憶力選手権でグランドマスターに挑戦したときもそうでした。

 その日は時差ボケからくる睡眠不足でコンディションは最悪だったのですが、競技が始まった途端、頭の中のモヤのようなものが晴れて競技の世界に没入できたことを今でも思い出します。

 このように、最高の集中力が発揮できるなら、どんな人でもこの力が欲しいと思うのは当然でしょう。「ここ一番」というときにいつでもフロー状態に入れるのなら、これほど心強い味方はありません。

 フロー状態に入るためにはいくつかの条件があります。

 人の能力はそれぞれ違うので、フローへの入り口もまた個々で違うのですが、共通して言えることは、「フローに入りやすい体質にしておくこと」が大切だということです。

 そこで、一番に重要になってくるのが「メンタル」なのです。

 ハーバード大学のハーバート・ベンソン博士によると、フローに入るためには、2つの段階があり、それらは「苦闘」「解放」と呼ばれています。

「苦闘」とは、気持ちにプレッシャーをかける段階のことで、ほどよい「緊張状態」を指します。フローの入り口としてストレスが必要なのです。

 面白いとは思いませんか。大事なところでは緊張しないようにしがちですが、フローに入るためには最初に脳の中に緊張によるストレスホルモンが放出される必要があるのだそうです。フロー体質になるには、あえて緊張状態をつくってください。

 次の「解放」は、前段階の「苦闘」からの、まさに解放です。一度高めた緊張を解く必要があります。課題から一時的に気をそらし、リラックス状態をつくる必要があります。このリラックス状態により、ストレスホルモンを減らし、脳の中に快楽をもたらす物質を増やすのです。

 この状態になってはじめて「フロー」状態に入ることができるのです。

 この条件を使って、私が大事な本番の前に行っている準備の方法を紹介します。

1.メンタルプレッシャーを与える
 本番で起こりそうな出来事、またそのときに浮かびそうな感情をすべて洗い出します。いいものも悪いものも頭の中でイメージして疑似体験します。イメージの仕方は、前回のメンタルリハーサルを利用すると簡単です。脈が速くなるぐらい、できるだけリアルに想像してください。

2.リラックスできる行動を増やす
 メンタルリハーサルは本番の1週間前に終了します。そのあとは本番とは無関係である自分の趣味など楽しいことを増やし、できるだけ本番のことを考えないようにして過ごします。1週間あける理由は本番までに緊張状態からリラックス状態へとスムーズに移るためです。

 この「解放」の期間は、本番で脳が効率的に働くことができる、言い換えると自動化できるように情報の整理をしている段階なのです

緊張からの解放で、脳を効率的に働かせる